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すぐ傍にいる 8
「Mr. Smith, good morning.」(スミス氏おはようございます)
「Good morning. I had them associate much yesterday, and it was bad.」
(やあ、おはよう。昨日は沢山付き合ってもらって悪かったね)
「It was meaningful time.A schedule is pushing it today. Shall we go?」
(有意義な時間でした…今日はスケジュールが押しています。行きましょうか)
「Well, I also ask to interpret today.」(あぁ今日も通訳しっかり頼むよ)
だいぶこの依頼人にも慣れてきた。
スキンシップが多いのは外人には多いことだしフレンドリーなだけで、どうやらそう気にすることもなさそうだ。よく見ると優しそうな笑顔を浮かべていて、なんとなくほっとした。俺は警戒しすぎなんだな……どうも悪い癖が抜けない。
俺たちは早朝から車に乗って、江南方面の不動産物件の視察に出かけた。
どうやら代議士はソウルで不動産を何件か手に入れたいようだ。事前にKaiに渡された資料通り、不動産を次々に案内しているとあっという間にランチの時間になっていた。大事な友人と会うという代議士をレストランへ見送って、今からニ時間ばかりフリータイムだ。
「Kai、俺達もランチ食べようか」
「おお、そうだな。どこにいく? 江南だから美味しいレストラン沢山あるぞ」
「あっ、今日は公園がいい」
「公園? 」
「んっ、弁当作ってきてやった」
「わぉ! 洋の愛妻弁当か~役得だな!」
「おいっ!」
****
ピピピピ……
午前七時アラームの音で目が覚め、俺は飛び起きて急いで仕度をする。重役のボディガードは朝8時の朝食時間からだ。その前に昨日のホテルマンに会って聞きたい。もしかして洋を知っているかと。
だがロビーを見渡しても『Kai』というホテルコンシェルジュの姿は見えない。時間がないので、フロントに確認することにした。
「すいません、あっ日本語OKですか」
「はいお客様。どうぞお話し下さい」
「あの、こちらのホテルのコンシェルジュにKaiさんって方いらっしゃいますか」
「はいKaiですね。確かにおりますが」
「今、どこにいますか? 聞きたいことがあって」
「少々お待ちください」
早く会って聞きたい。じれったい気持ちでいっぱいになってくる。絶対彼は洋を知っている。そう思えるから!
「お客様、大変申し訳ございません。あいにく本日Kaiは他のお客様のコンシェルジュを担当しておりまして、終日ホテルには戻らないようです」
「えっそうなんですか。じゃあ明日はどうですか」
「担当のお客様のスケジュールに合わせていますので、明日にならないと予定が分からないようです」
「分かりました。でもとにかくこのホテルに所属しているのですね」
「はい、もちろんです。明後日には内勤で終日おりますので」
今日は会えないようだが、明後日には必ず会える。俺も明日が重役の国際会議本番だから、これから忙しくなる。仕方がない、焦っても無駄だ。まずは仕事をこなしてからだ。
朝食が終わりホテルの客室へ戻ると、重役は通訳の松本さんと共に明日の会議の打ち合わせを始めた。俺たちは秘密事項も多いので客室の外で待機していると、中から何か揉めるような重役の怒った声が聞こえて来た。
「何ごとだ?」
「やれやれ……またですよ」
ボディガードと顔を見合わせてしまった。
暫くしてコンシェルジュの初老のホテルマンが慌てて重役の客室へ入って行った。どうやら重役に呼び出されたようだ。依頼人である重役はどうも俺的には気に入らない。偉そうにふんぞり返って俺たちを見下す嫌な目つきだ。この仕事以外で関わりたくない部類の人間だ。
****
「まったく君らのホテルの通訳は使い物にならないな。この程度なのか!」
「申し訳ございません」
「まったくこの男は駄目だ。違う人に替えてくれ。他にもいるんだろっ! 医療用語をきちんと理解している奴を寄こせ」
「お客様……あいにく当ホテルの日本語を理解する通訳はあと一人しかおりません」
「そいつは日本人か」
「はい」
「じゃあそいつに替えろ。今日の午後からだ」
「申し訳ございません、あいにく他の仕事で出ていまして」
「この松本っていう通訳と入れ替えればいいだろ」
「……」
「明日の国際会議がどんなに大きいものか君たちも知っているだろう。失敗は許されない。ちょっとした通訳のミスが命取りだ」
「分かりました……すぐに呼び戻します」
****
俺とKaiは、車で江南の※盤浦漢江公園 パンポハンガンコンウォン にやってきた。
※ソウルを東西に流れる漢江にかかる21の橋。その真ん中の盤浦大橋の南端が盤浦漢江公園です。漢江公園の中でも人気の高いスポットで、見所は「月光レインボー噴水。橋桁部分から漢江へと降り注ぐ水のダイナミックなアーチはギネスブックにも登録されたほど。毎日決まった時間に音楽とともに始まる15分のショーは、昼も夜も違った魅力を見せてくれます。
公園内の一部はピクニック広場となっていて芝生が広がっている。
「うぉ~気持ちいいな~」
kaiが大きく伸びをして叫ぶ!
「あぁこんな平日の昼間に来るのは久しぶりだ」
漢江の水面がキラキラとしていて、風も気持ちいい。
「さぁランチにしよう。Kaiにも作って来てやったぞ」
「おっやった! 洋特製おにぎりだな。やっぱり洋の作った方が美味しそうだな」
「ふふっよかったよ。喜んでもらえて」
「俺、役得だな。あとで丈に殴られそうで怖いよ。あっ飲みもの買ってくるよ。何がいい?」
「じゃあコーン茶で」
Kaiが嬉しそうに飲み物を買いに行く後姿を眺めていると、上着の中で携帯が鳴った。仕事専用の方だ。確認するっと相手は、通訳部門担当のホテルの部長だった。
上司から仕事中に……一体何事だろう?
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