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贈り物 3

「わっ!もうこんな時間、僕もう帰るよ」  時計を見ると、もう二十三時を回っていた。慌てて帰り支度をしていると、安志さんがぎゅっと手頸を掴んできた。  えっ!めずらしく積極的でドキッとする。 「涼……今日はもう遅いから泊まっていけよ」 「えっ……でも」 「こんな時間に一人で帰らすなんて、俺が心配なんだ。何もしないから安心しろ」  安志さんは苦笑していた。  いや……何かあってもいいんだけどな。  そんな不埒な考えが浮かんでしまって思わず赤面してしまった。  全く、僕は意識しすぎだよな。安志さんがとても真面目に僕のことを考えてくれているのが痛いほどわかる。だから大切に一歩一歩進もうとしてくれているのも。でも最近僕は少し変なんだ。もう少し先に行ってみたい。いや……行きたくてしょうがない。  あぁこんなことを考えているなんて安志さんが知ったら、がっかりするかな。でも好きなら自然なことだよな。こんな風に自分からこんな気持ちになるのは初めてで戸惑うよ。  今まで告白されて女の子と付き合っても、こんなドキドキした気持ちにはならなかった。キスを求められればしたけど、その先は必要を感じなかった。  でも今はどうだ。僕の……この疼く感じ。女の子がキスだけで済ますと、不満そうに僕を睨んだ気持ちが今になって分かるなんて。  僕はそうか……自分では深く考えないようにしていたけれども、もともと異性より同性といる方が好きだった。小さい頃から……これって幼い頃に洋兄さんを見たせいかも。洋兄さんは男の僕が見ても見惚れるほど、なんというか綺麗だった……顔だけじゃなく心も何もかも。  あの頃から、ませた五月蝿い女の子の相手をするよりも、同性同士でじゃれあう方が落ち着くようになってしまったんだ。  ただ僕は成長して同じ顔になっても、洋兄さんみたいな魅力があるとは思えない。でも今はこの顔に感謝しているよ。安志さんが僕を見つけてくれたきっかけになったのだから。  安志さんはソウルから帰国して、まっすぐに僕の顔だけを見てくれているのが分かった。以前のような洋兄さんの面影をどこかに求める感じがなくなった。だから僕だけの安志さんになってくれたのなら、もう何も引き留めるものはない。 「う、うん……じゃあそうする」  そう答えると安志さんは嬉しそうに笑ってくれた。あぁ僕は、この安心できる明るい笑顔が好きなんだなとしみじみ思う。 「明日は涼も大学休みなのか」 「土曜日だから休みだよ」 「じゃあ寝坊できるな」 「寝坊! 」  それって……いや期待しない方がいいのか。いやもしかして……さっきから頭がぐるぐるしてくる。 「じゃあ涼、風呂先使えよ」 「そっ……そうさせてもらうね」  これはもしかして……という思いと、いつも慎重な安志さんのことだから、あまり期待しすぎない方がいいかもという思いが交差する。 「あのさ、実は涼に贈り物があるんだ」  安志さんは嬉しそうにスーツケースの中から包みを取り出し、渡してくれた。 「お土産? 」 「まぁそうだな、ソウルで泊まったホテルの隣が大きなデパートで、ちょっと見ていたら」  真っ赤になって照れている安志さんは十歳も年上とは思えないほど、可愛く感じる。包みを開けてみると中身はパジャマだった。  上質な肌触りのリネンで、色はブルーグレー。 「うわっ! これすごく肌触りがいい。軽くて着心地も良さそうだ」 「だろ? 涼はこういう品の良いものが似合いそうでさ」 「安志さん、嬉しい! ありがとう!」  なんだかもうすごく嬉しい気持ちで心が満杯だ。僕にお土産なんて……それもパジャマ!その気持ちを込めて、そのまま安志さんにふわっと抱き着いた。 「うわっ涼、ち、近い!」 「安志さん、これ嬉しいよ。すごくすごく」 「そうか良かった! 」  安志さんの大きな手が、ためらいながらも、ゆっくり僕の腰を抱きしめてくる。お互いの躰がぎゅっと密着すると、なんだかもう止まらない何かが躰の奥から沸いてくるのを感じる。  もっと強く抱きしめて……そして……  と思ったのに、安志さんがやんわりと躰を離してきた。 「さぁ涼、風呂入って来いよ。それ着てみて欲しい」 「えっ? あっ……そうだね。じゃあ着てみるよ」 「あぁゆっくり入っておいで」  うーん……これは。    僕もここまで来たら覚悟もある。手順がいまいち不安なこともあるけれども、あぁ実は洋兄さんに教えてもらうつもりだった。  でも、もうこのまま一気にでもいいと腹を括った。

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