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贈り物 4

 まずいな。参った……このままじゃ俺、もう自制心を保つ自信がない。  もう無理だろ……これ。  風呂場から涼がシャワーを浴びる音が聴こえてくる。まるでドラマかなんかのワンシーンみたいに非現実的な気分になってくる。そしてあらぬ妄想が次から次へ浮かんで来て……頭の中がパンクしそうになっていた。  涼……いいのか。  今晩このまま君を抱いても。  抱きたいという素直な欲求と同じくらい、まだ十八歳の涼への責任みたいなのを感じてしまっている。  おそらく涼は女の子を抱いたこともないだろう。そんな相手に最初の相手が男の俺で本当にいいのか。でも俺はたぶん風呂からあがった涼を見たら、もう我慢できない。  待てよ。あーそれなら俺も風呂に入ってからじゃないと。それよりちゃんとうまく出来るのだろうか。俺だって同性を抱くのは初めてなんだ。  涼が痛がるような傷つくことだけは絶対にしたくない。涼の気持ちを優先して……もう、なるように任せようか。  ベッドの前で右往左往していると、浴室のドアが開く音がして心臓が飛び跳ねた。 「あの……あがったよ。お先にありがとう。安志さんも、お風呂入って来る? 」  涼も緊張しているようで、声が小さく震えている。俺は涼のことを見ることもできずに、慌ててパジャマを掴んで風呂場へ逃げ込んだ。 「えっ安志さん? 」  なんだか、ふわふわした気分だ。あんなに若くて可愛い涼が、本当に俺のことを好きでいてくれるという実感がまだ湧かない。  涼は若いだけでなくて、思慮深い。  アメリカ育ちで少し奔放なところも、前向きで明るいところも大好きだ。でもそれだけでなく、周りに気を配れるきめ細やかな性格だ。きっと育ちがいいんだろうな。優しく強くしなやかに育っている。そんな涼といると居心地がいい。  俺がして欲しかったこと、したかったことを軽々と叶えてくれるから。  涼は素直で優しい。  湯船につかりながら、涼のことばかり考えていたら、早く抱きしめてキスしたくなった。もう我慢できない。急く心をなんとか落ち着けながら、慌てて躰を洗い、いつもの洗いざらしのパジャマを着た。あぁ俺としたことが……どうしてお揃いのパジャマを買ってこなかったんだ。  こんなボロボロのパジャマで……いや、でもあんな上品なの似合わないし。  俺は俺らしくだ。はぁ……気を取り直して、部屋に戻ると少し頬を赤くした涼がベッドに座っていた。  あぁもう駄目だ。もう我慢できない。  ほの暗い部屋に、涼が座っている。  お土産のリネンのパジャマが、ほっそりとした涼の躰によく似合っている。身体のラインに沿って、ストンと落ちる生地がとても優美だ。品のよいその顔立ちにブルーグレーの深い色合いがよく映えて、まだ半乾きの栗色の髪が艶やか輝いて、まるでどこかの国の王子様のようだ。  綺麗だ。すごく。  思わず見とれてしまった。 「安志さん、どうしたの?」 「あぁ……もう寝るか。涼がベッド使っていいよ」 「うん、でも………今日は、その……一緒のベッドで寝てもいい? 」 「あっうん」  そうしたいさ。もちろんだよ。  俺が言いたかったことを、涼は汲んでくれる。  投げたボールはいつでも直球で返ってくる。  このリズムが心地良い。  二人してシングルの狭いベッドに潜り込んだ。 「ふふっ」  涼がくすぐったそうに笑った。 「なに? 」 「やっと一緒のベッドに入ってくれたね」 「え? いや……だって、その」 「安志さん……聞いて。僕ね安志さんがソウルに行っている間、本当は少し怖かった」 「えっ何故だ? 」 「僕が頼んだことなのに、洋兄さんと再会したらまた昔の気持ちに戻ってしまって、僕のことなんて忘れてしまうんじゃないかって……本当は少しだけ不安だったよ」 「涼っそんなこと思っていたのか。ごめんな」  そんなことを涼に思わせてしまったなんて……俺の心のぐらつきのせいで、心配かけていたんだな。 「涼、大丈夫だ、もう大丈夫なんだ」  そう言って涼の手を繋いでぎゅっと握りしめた。  洋と会えてよかったんだ。ソウルに置いてきたよ。俺の洋への恋愛感情は……だから、もう吹っ切れた。 「安志さんはいつも優しい。でももっと我が儘言って欲しい。僕には……」 「涼、ごめんな。心配かけて」 「いいだん。相手は洋兄さんだもの。でも本当はやっぱり少し妬いてしまったけどね」 「洋は幸せそうだったよ。丈さんという恋人に甘えて寄り添って、そして明るくなって、前に進んでいた」 「会ってみたいな。洋兄さんにも恋人の丈さんにも」 「そのうち連れてくるよ。きっと会えるよ」  さっきからさりげなく触れ合う肩や指先が熱くてしょうがない。すぐ隣に涼がいる。手を伸ばせば届く距離に。  涼は俺のことを好きでいてくれて、俺も涼のことが好きだ。相思相愛というのは、こんなにもふわふわなものなんだなぁと幸せを噛みしめる。 「涼、好きだ。本当に好きなんだ」  そういえばこんな風にちゃんと告白しただろうか。俺は……ふと横に寝ている涼の顔を見つめると、もどかしそうな苦し気な表情を浮かべていた。 「涼、どうした? どこか苦しいのか? 」 「安志さんは僕が欲しくない? 僕は安志さんが欲しくてたまらないのに……」 「涼っ!」  その言葉で何もかも……理性で押さえつけていた感情が全部吹っ飛んだ。次の瞬間、もう無意識に俺は涼にガバッと覆い被さって、そして涼の手首をシーツに縫い付けた。  好きだっ、好きだ。好きなんだ!  欲しい! 涼をこのまま自分のものにしたい。抱きたい。  そんな感情の赴くままの心の声が、自分の中からどんどん沸き上がってきて、制御出来ない。  その思いのたけをこめて、涼の形のよい唇を奪った。啄むようなキスではなく、吸いつくように深く、戸惑う涼の舌をどこまでも追いかけていく。 「はっ……んっ……ん」 「涼、このまま、シテいいか」  その言葉に涼がはっとして俺を見上げた。目が潤んで赤らんで、ぞくっとするほど色っぽい。  涼は無言でコクリと頷いた。 「優しくする」 「んっ……」  そして躰の力を抜いて恥ずかしそうに目を伏せた。仰向けの無防備な涼の首筋にそっと唇を這わすと、それだけで涼が震えた。震える喉仏に、あぁ俺は本当に同性を抱いているのだと実感し、その相手は涼だということに嬉しさを覚えた。そっとリネンのパジャマの肌触りを楽しむかのように、涼の上半身を手でまさぐっていく。 「あっ…」  か細い声を涼があげた。  小さな小さな突起を探り当て、そっと布越しに触れていく。

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