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新しい一歩 4
目を伏せた優也さんの顔をじっと見つめると、その長い睫毛が儚げに震えていた。本当に清楚な印象の端正な顔だ。改めて惚れ惚れしてしまうよ。カタカタと震える薄い肩。緊張しているんだ。それが切ないほど伝わって来る。大事にしてあげたい人……そういう気持ちで一杯になる。
「優也さん……ありがとう」
そっとその両頬を挟む様に手を置いて顔をゆっくり近づけて、最初は触れるか触れないかの掠めるようなキスをした。冷たそうに見えた唇はとても暖かく柔らかかった。
「温かいな……」
それからもう一度今度は唇をぴったりと合わせるようなキスをした。それから俺の想いを込めて深いキスをした。
「んっ……」
普段の優也さんの落ち着いた冷たい声とはまったく違う、甘い声が微かに聞こえ胸が熱くなった。
恐らく優也さんは男とキスをしたことがある。そしてもっと深い関係も知っている。なんとなくそう感じた。でも、そんなことは構わない。今ここで一人震えている優也さんのことが俺は好きなんだ。
貪るように優也さんへの想いを込めて、口づけを深めていく。誘うように薄く開いた唇の隙間から舌を差し入れると「ううっ」と声があがった。
このまま続けても大丈夫だろうか……そっと表情を確認すると、細い顎が小刻みに揺れ長い睫毛もふるふると頼りなく揺れていた。優也さんの唇は弾力があって触れると、とても気持ちが良かった。それにとても感じやすいみたいで、唇をなぞる様に這わせると躰がびくっと揺れた。
濡れそぼった唇を一旦離して、優也さんの顔を覗きこんだ。
「ごめん。性急すぎた?」
「Kaiくん……もうそれ以上は」
「駄目? 」
「……怖いんだ」
「俺のことが? 」
「違う………僕は臆病になっている」
「優也さん…どうしてそんなことを? 」
「もう……嫌なんだ」
「何が嫌なの? 」
「あんな風に捨てられるのが怖い……」
優しく問いかけると、返してくれた言葉は哀しい経験を物語るものだった。優也さんは日本でかなり辛い恋を経験したのだろう。だからこんな風に前へ進むことを怖がって……俺はそんな優也さんを不安にさせたり怖がらせたくしたくない。
「分かった。これ以上は何もしないから……でも俺の気持ちを汲んでもらえた? 」
優也さんは少しだけ頬を染めて、コクっと頷いてくれたのでほっとした。
「優也さん、思い切って一歩踏み出してみないか。俺が手を引いてあげるから。ずっと」
「そんなの無理だ。Kaiくんが僕となんて、Kaiくんみたいに若くていい子にはもっといい人がいるよ。こんな薄汚れた僕なんて不釣り合いだ」
「優也さんっどうしてそんなに自分のことを卑下するんだよ! 俺は優也さんがいいって言っているのに」
もう一度その唇を塞いで喋れないようにした。もうこれ以上優也さんに、自分を卑下するような言葉を口にして欲しくないから。
「んっ……Kaiくん」
抵抗しながらもキスを深めると、喉の奥から感じているような声をあげてくれるので、やめられなくなる。
「好きだ。優也さん」
その声に促されるように……
温もりを欲しがるように……
優也さんが、俺にぎゅっと抱きついて来た。
……
優也さんの過去は『深海』にて連載中
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