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来訪 1
翌朝、思い切って鎌倉の家へ電話してみた。こうやって改まって電話するのは何年振りだろうか。ソウルで医師をやっていることを伝えったきりかもしれない。
たまに二人の兄からメールが入って、家の様子は一方的に知らされてはいたが、自分から連絡を取るようなことは一切していなかった。
私は三兄弟の中でも、上の二人の兄のように社交的ではなく内向的で人付き合いが苦手だったので、家族の中でもいつも浮いていた。幼い頃はそんな性格の私を心配して父がよく仕事のついでに海外に連れて行ってくれたものだ。
「はい月影寺です」
「もしもし。あ……流(りゅう)兄さん、私です」
「えっ……お前、丈なのか! まったく音沙汰なしで、今までどこをほっつき歩いていたんだ」
「すいません。あの……皆さんはお元気ですか」
「あぁ母さんはまた伊豆の別荘に行っているが、みんな元気だ。お前今どこにいる? まだソウルなのか」
「いえ……日本に戻って来ています」
「何? そうか。おっ! もしかしてこっちに帰って来る気になったのか」
「いえ……そういうわけではなく……でも今からそちらへ行ってもいいですか。出来たら少し滞在したいのですが」
「へぇ珍しいこと言うな。もちろんいいぞ。んっ……それってもしかして」
「友人を一緒に連れて行きますので、部屋をお願いします」
「おっお前に友人? なんだそれ、そんなことすんの初めてじゃないか。もしかして彼女か」
「……男ですが」
「そうか。まぁそうだよな。うーん、とにかく待っているから、父さんたちにも伝えておくからな」
「ありがとうございます」
真ん中の兄は、電話越しにもかなり驚いているようだった。そんな様子に苦笑してしまった。まぁ無理もない。確かに私には友人らしい友人もいなかったし、まして家に誰かを連れて行ったことなんて一度もないからな。
****
「洋兄さん、もう起きないと。洋兄さんってば」
ゆさゆさと甘い声と共に肩を揺さぶられてようやく目が覚めた。一瞬自分が何処にいるのか分からなかったが、すぐに俺のことを覗き込んでくる涼の明るい笑顔に、一気に温かい気持ちになった。
「あっ涼、おはよう!随分早起きだね」
「くすっ洋兄さんぐっすり眠っていたね。もう九時過ぎだよ」
「えっもうそんな時間? 」
「僕さ、少しジョギングしてきてもいい?」
「分かった。じゃあその間にシャワーを浴びて、朝食作って置いてあげるよ、何かある?」
「本当? 洋兄さんの手料理嬉しいな。冷蔵庫のもの適当に使ってね。じゃあ三十分くらいで戻るからよろしくね」
ジョギングに行くつもりだったようで既にスポーツウェアに着替えていた涼は、黒いキャップを被り軽快に出かけていった。
その軽い足取りと後姿が眩しくて目を細めて見送った。
涼はやっぱりまだ十代だし、若いな。俺は運動はいまいちだが、涼は運動神経も良さそうなだもんな。そうえいば安志も中学高校と野球をやっていて、よく応援に行ったのが懐かしい。
安志も涼も運動好き同士、気が合うだろう。二人のデートの様子を想像すると顔がにやついてしまう。
それにしても随分と寝坊してしまった。涼の隣で寝るなんて初めてで照れ臭かったけれども嬉しかった。身内っていいものだな。一晩中、丈とはまた違う安心感に包まれていた。
「あっそうだ! 丈に連絡しないと……」
慌ててシャワーを浴びて着替えてから、丈に連絡を取ろうとソファに腰を下ろした途端に玄関のインターホンが鳴った。
「涼! 早かったな」
そう言いながら玄関を開けると……
「えっ」
「あっ!」
そこに立っていたのは意外な人物だった。
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