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アクシデント 9

 退社しようと思ったら、洋からのメールが届いた。内容は涼がモデルの仕事中に怪我したということと救急病院の場所だけだった。驚いてすぐに何回か洋にメールをしたが返事はなく電話にもずっと出ない。  一体何があった?  俺はそのまま電車に飛び乗った。病室に行っても大丈夫だろうか。モデルの仕事中の事故らしいからスタッフの人がいるかもしれない。一瞬そのことに躊躇ったが、そんなこと構って居られない。俺は行きたい。会いたい。この目で無事を確かめないと気が済まない。  それに涼のことが心配だが、洋もかなりショックを受けているようで心配だった。  受付で聞くと、涼は意識も戻り面会できる状態になっているそうで、ほっと胸を撫でおろした。  トントンー 「涼……入っていいか」 「どうぞ」 『月乃 涼』とプレートに書かれた個室をノックすると、すぐにいつもの甘く優しい涼の声が返って来た。そっとドアを開けると、部屋には他に誰もいないようだったので、ほっとした。 カーテンの隙間からベッドを覗くと、涼がいた。 「安志さん!」  少し気まずそうな涼の顔。頭に巻いた包帯が痛々しい。 「涼、驚いたよ」 「どうして……あっ、洋兄さんが知らせてくれたの? 」 「あぁメールもらってな。一体なんでそんな怪我を? 」 「そうか……安志さん心配かけてごめん。撮影が終わった後、帰ろうと思ったら急にカメラが倒れて来て。先輩を直撃しそうだったから助けようと思って。でも僕だけ逃げきれずにカメラと衝突しちゃったみたいで」  まったく涼らしい。人を庇って怪我をするなんて……その先輩のことを本当に純粋に助けたかったのだろう。俺もそのシチュエーションだったら、きっと自然に躰が同じように動いていただろうから、涼の気持ちがよく理解できた。 「大変だったな。怪我……酷いのか」 「ここを数針縫った程度なんだけど、病院に来るまで意識がなかったから、みんなを驚かせてしまったみたいで恥ずかしいよ」 「良かったよ。俺も心配した」  辺りに誰もいないことを確かめてから、そっと涼の手を握り、確かめるように涼の躰をじっと見つめた。手首や顔にも少し擦り傷や切り傷ができていて、事故は涼が説明するよりもずっと大事だったことを物語っていた。 「ここ痛いか」  そっとその手首を擦ってやると、涼が少し頬を染めて首を横に振った。 「こんな所も怪我してたのか。でも僕は傷の治りが早いから大丈夫だよ。安志さんも仕事帰りで疲れているのに、来てくれてありがとう」 「涼、少し起きられるか」 「うん。さっき先生に少しならってOKもらったよ」  健気なその様子に胸がぐっと詰まる感じだ。そっと近づいて傷に当たらないように気をつけながら、ぎゅっと俺の胸の中に涼の顔を埋めさせた。おずおずと涼も俺の肩に手をまわしてくる。 「安志さん、ごめんなさい。心配かけたよね。逆の立場だったら居ても立っても居られないよ」 「あぁほっとしたよ、早く治せよ」 「うん」 「これはお見舞いだ…」  痛々しい頭の包帯をそっと撫でて、そのまま指先で顎を掴んで、優しいキスをした。唇も衝撃で少し切ったようで、少しだけ血の味がしたので胸が痛んだ。少しカサついてしまった唇を舐めてやる。潤いを分け与えるように……涼の無事を確かめるように。 「んっ」 「はぁ駄目だな……涼は怪我人なのに、こんなことして」  自制するように涼の唇から離れ、少し冷静に当たりを見回すと、ふと違和感を感じた。  そういえば洋がいない。どこだ? 「洋は? 」 「あっ……そういえば戻ってこないな。さっき診察があったから廊下にSoilさんと一緒に出てもらったんだよ」 「Soilさんって? 」 「ほら僕の事務所の先輩で……この傷Soilさんを庇って怪我してしまって、かえって先輩に負担かけちゃったかも。救急車に一緒に乗ってくれたんだって」 「そうなのか。で、そのSoilさんという人も此処にはいないようだな」 「さっき一度戻って来て、もう帰るって言っていたから。それにしても洋兄さんどこだろう?洋兄さんにすごく心配かけたみたいで。僕が意識を取り戻した時、泣いていたんだ。だから心配だな」 「洋は本当に涼のこと弟のように可愛がっているからな。あいつ、身内少ないし本当に心配したのだろう。ちょっと探してくるよ」  きっと洋は、またひどく落ち込んでいるだろう。自分のことのように心配してショックを受けているに違いない。そういうマイナスの気持ちをいつも抱え込んでしまう奴なんだ。昔から少しもそういう所は変わらないな。  病室を出るとすぐに暗く長い病院の廊下の先に、洋らしき人影を見つけることができ、ほっとした。近づいてみると、やっぱり俯いたまま固まっている洋だった。 「洋……どうした?」

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