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隠し事 15

「洋を離せっ!」  突然飛び込んで来た声の主によって陸さんの腕からぐいっと引き離され、広い胸にドンっと受け止められた。  この香り……そして、この広い胸……振り向けば、想像通り丈が酷く張り詰めた表情で立っていた。 「丈っ! 」 「洋、大丈夫か」 「うっ……」 「この馬鹿! 心配ばかりかけて。この姿、一体どういうことだ? 」  そのままぎゅっと背後から抱きしめられた。すっぽりとその広い胸に収まると、俺の躰には安堵感がじわじわと広がっていった。 「ごめん丈……俺……また……」  丈は無言で俺のシャツのボタンを一つ一つ留め出した。衣服が整えられていくのと同時に、丈にすべて見られていたという恥ずかしさと、何故陸さんは俺にあんなことをという悔しさが込み上げてきた。  陸さんの唇の感触を思い出し慌てて手の甲で唇を拭うと、出血はもう止まっていた。 「丈さん! 来てくれたんですね」 「あぁ安志くん、教えてくれてありがとう。助かったよ。洋のこの傷は……」 「うっすいません。俺が……その」  丈と安志が会話する中、俺達を見比べ驚いている陸さんの冷たい視線を感じた。 「へぇなんだよ。そういうことかよ」  その声に反応して、丈が陸さんを改めて視界に入れる。 「君は何故洋にあんなことを。強引に呼び出して一体どういうつもりか」 「そういうあんたは、サイガヨウの何?」 「洋は私にとって大事な人……恋人だ」 「丈っなんで……そんな! 」  驚いた。丈が人前でこんなにもはっきりと宣言するなんて。 「はっ? はははっ…あんたみたいな立派そうな男性の恋人がサイガヨウだなんて笑っちゃうな……サイガヨウ、お前ゲイだったのか? おい、こいつはな、俺の父を奪った憎い女の息子だよ」 「では君は、洋のお義父さんの息子なのか」 「あぁれっきとした血の繋がったな」  丈は思いっきり表情を曇らせた。 「そうか……」 「あぁ知らなかっただろ。俺は最初から全部知っていたのに、サイガヨウは今日まで何も知らずに呑気に生きて来たんだ。この位なんだよ。俺がこいつの身体で遊んだっていいだろう」 「一体君は何を言っているのだ? 本心からそう思っているのか」 「っつ……何だと! 」 「では何故、洋にキスをした? 」 「そっそれは……どうでもいいだろっ! もう行けよ! 顔も見たくないっ!」  陸さんはひどく気まずそうな表情を浮かべていた。何もかも拒絶しているようなピリピリとした雰囲気なのに、何故かとても悲し気に辛そうだった。この人は傷ついた子供みたいな人だ。  その時背後から、優しく諭すような声が届いた。 「陸……気が済んだろう。もう帰ろう」  振り返るといつの間に、もう一人男性が立っていた。眼鏡をかけたグレーのスーツ姿の穏やかな雰囲気。この人は編集部にいた遠野 空さんだ。 「空っなんでお前まで? あっお前だな。この場所バラしたの」 「陸……ごめんよ。さぁもう行こう。君にこれ以上酷い言葉を吐いて欲しくない。君は本当は優しくて頼もしい奴じゃないか。洋くんごめんね。今日のところは一旦帰ろう。一度君たちとは冷静に話をしたいから、また連絡して欲しい」  そう言いながら空さんは俺に、真っ白なハンカチを差し出した。 「血、拭いて……綺麗な顔が台無しだよ」  白いハンカチに浮かぶのは、ここにいる五人の乱れた心。  陸さんと空さんの気持ち。  丈と安志の気持ち。  そして俺の……  何もかも晴天の霹靂で、考えがうまくまとまらないよ。  この先どうしたらいいのか……頭の中が真っ白になってしまった。

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