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上弦の月 6
何度見ても信じられない……これがあの洋兄さんだなんて。
いつも俯いていて少し寂しげだった洋兄さんの面影はこの写真にはなく、どこまでも凛々しくて素敵だ。安志さんとはまた違う凛と張りつめた男らしさに色香に溢れていて、正直かなり驚いてしまった。
それにしても安志さん、あんなに食い入るように見つめちゃって。
はぁ……それもそうだよな。僕に出会うまで、ずっと小さい頃から洋兄さんのこと好きだったのだから、しょうがない。
従兄弟の僕だって惚れてしまいそうな程、この洋兄さんはいつもの何倍も魅力的だ。それは分かっているのに、今日の僕は少しだけ変な気持ちだ。
安志さんはまだどこかでひきずっているんだな。完全に忘れられないのはしょうがない。僕もそれでいいと思って受け入れている。それでも、やっぱり今日は少し寂しかったな。
「ふぅ……」
安志さんが帰った後、何度も見てしまったアルバムをパタンと閉じて、溜息をついてしまった。こんな風に嫌なことばかり考えてしまうのは、きっと連日の寸止めで、悶々としてしまっているからだ。
まるでこれじゃ我慢比べだな。
そっとまだ余韻が残る自分の胸に手を当ててみた。安志さんに触れられるとすぐにツンと尖る乳首を、パジャマの中から直に僕の指でそっと擦ると、むず痒い気持ちがした。ここ……もっと触れて欲しかった。
それにしても、自分の手でも少しは感じるんだな。
はぁ……いつの間に僕……こんな躰になってしまったのか。
男なのに男に抱かれて……気持ち良くなってしまうなんて。
いや、これは安志さんだからだ。安志さん以外の人からの触られたりじっと見られるのは気色悪いだけだということを、あの夏のキャンプでの体験で僕は重々知っている。
アメリカで常に性的な目で見られることには慣れていても、あんなに危ういところまで襲われたことはなかったから、本当に今でも思い出すのが辛い出来事だ。あの時の僕は寸前で逃れられたけれども……あの時助けが入らなかったら今頃どうなっていたか。ここ頻繁に見てしまう、洋兄さんになったかのような悪夢が気になってしょうがない。
洋兄さんは、まさかとは思うけど……理不尽に最後まで犯されてしまった体験があるのでは。だからなのか……あんなにも安志さんも丈さんも、洋兄さんを守ることに必死になっているのだろうか。
その先を僕の口から尋ねることは出来ない。
でも……これだけは分かるんだ。
洋兄さんの悲しみは僕の悲しみにつながっていく。そして洋兄さんの幸せも僕につながっていく。
だから洋兄さんが抱えきれなくなったとき、その悲しみを少しでも背負わしてほしい。逆に僕の感じた幸せをどんどん洋兄さんに送って、洋兄さんを満たしてあげたい。
僕たちは、この日本で再会してから着々と二人で一つのような存在になって来ている。だから、お互いの感情を循環させ、いい方向へ導いていきたい。そのためにも洋兄さんに丈さんがいるように、僕には安志さんが必要なのかもしれない。
洋兄さんの大切な幼馴染だけど、僕の安志さんでいいんだよね。
あぁ早く安志さんにちゃんと抱いてもらいたい。そうしたらこんなもやもやした気持ちは晴れるのに…
我慢出来なくなって、とうとう自然と自分のものに手を添え、目を瞑って安志さんの姿を思い浮かべてしまった。
「んっ……」
温かい大きな手で僕の腰をぎゅっと掴んで、僕の上で律動していく安志さん。僕を躰全体で欲してくれるその動きが心地良い。精悍な逞しい躰から降る爽やかな汗は、五月雨のように澄んでいる。
「あっ……ん…ん」
自分の手で、自分の高まりを慰めた。どうしても明日まで待てなかった。
なんともやるせないこの気持ちの置き場がなくて。
嫉妬と憧れと……不安と悲しみ……勇気と希望。
様々な感情で躰が侵食されていくのを、どうしても解放したくなった。
「安志さんっ」
自分でも驚くほどの切ない声と共に、手の平にべったりとした白濁の液体が飛び散った。
「はぁ……はぁ……」
そこではっと我に返った。
うわっ! 僕、病室のベッドでやっちゃったんだ。
欲求不満をぶちまけて……恥ずかしい。
途端に羞恥心が込み上げて、枕にうつぶせになった。安志さんは我慢できた? 僕は我慢できなかったよ。
自分自身の行動に呆れつつも、妙に躰が軽くすっきりした気持ちになっていた。
やっとこれで眠れそうだ。
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