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集う想い5

「お帰り、洋くん」 「えっ流さん……なんでここに?」  まさか流さんが迎えに来てくれると思っていなかったので、駅の改札でその姿を見かけた時は、正直驚いてしまった。一際背が高く、濃紺の作務衣姿のまま無造作に少し伸びた髪を後ろで結んだ流さんは、改札を通る人々から注目を浴びていた。 「ちょっとあの人格好いいわ! 背が高いね、モデルさん?」  そんな女性のどよめきが背後から聞こえてくる。  本当にその通りだ。流さんこそ、どこかのモデルみたいだ。月影寺の三兄弟は皆背が高くスタイルが良くて、俺だって小さい方じゃないと思っていたけれども、到底敵わない。複雑な気持ちで見上げると、流さんが、ふふんっといった感じの余裕の笑みを浮かべていた。 「車で来たよ、さぁ行こう」 「あの……丈は? 」 「あぁ来客中で席を外せないから、代わりにきてやった」 「そうだったのか。あの……すみません、わざわざありがとうございます」 「がっかりした? 」 「いえっ!そんなことは」  そっか来客中か。  東京で幸せそうな人たちに触れたら、俺も早く丈に会いたくなってメールをした。『駅まで迎えに来て欲しい』と。女みたいな甘えた頼み事するのは恥ずかしかったが、一晩会ってないだけで寂しくなってしまって、早く二人きりで会いたくなったんだ。まったく俺はこんなに弱かったか。いつもひとりでいた癖に…… 「さぁ帰ろう」  北鎌倉の駅から月影寺までは、車だと10分もかからない距離なのに、歩くには坂道で距離もあり堪える。特に今夜のように蒸し暑い日には、車で迎えに来てもらえるのは本当に助かるものだ。 「涼くん喜んでいた? 」 「あっはい。すごく」 「行きの荷物さ、結構重たかったんじゃないか。大丈夫だった? 」 「あっ……ええ……まぁ休憩しながら」 「そっか、丈がてっきり涼くんの家まで車で送っていくと思ったから、悪かったな。あんなに詰め込んでさ」 「とんでもないです。丈も忙しいから仕方がないです」  本当に流さんという人は、細かいことにまでよく気が回り感心してしまう。なんでこんな素敵な男性が結婚しないで、ずっと寺で食事や掃除をしているのか不思議だ。まぁ……それをいったら翠さんもだが。 「何考えこんでいるんだ? 難しい顔して」 「あ……いえ」 「何? ちゃんと話せよ」 「あの……どうして流さんも翠さんも、おひとりで……その」 「ははっ可愛いな、洋くんってやっぱり。もしかして俺達のこと心配してくれたのか」 「えっ……いや……その」 「洋くんが嫁さんにくるのが、凄く楽しみだ」 「ええっ? 」 「月影寺の嫁さんは洋くんだけでいいよ。俺はこれで満足してんだよ。俺が一番いたい場所、一番近い場所にいられるから」  あの人と……  そんな声が聞こえたような気がした。  誰かのことを具体的に話しているように感じた。  その誰かとは……  それを聞くのはやめておこう。  幸せの形は決まってない。  一つじゃない。  何を幸せに感じるか。  それはその人自身が決めることだから。  俺と丈が、そうであるように。

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