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花の咲く音 2

「じゃあ後で部屋に行きます」 「あぁ、まずは丈を起こしておいで」 「はい! 」  流さんとは母屋の玄関で別れた。流さんは朝食を作りに台所へ、俺は丈を起こすために離れへ続く渡り廊下へと向かった。離れの和室の襖を開けると、丈はまだ眠りの世界にいた。畳もだいぶ傷んでいるのか、ミシミシと音を立てながら部屋に入る。  これは確かにそろそろリフォームが必要だな。丈が考えてくれたあの間取り図を思い出し、自然と笑みがこぼれた。  そのまま奥の和室に布団を敷いて、ぐっすりと眠っている丈の枕もとにしゃがみ込んだ。 「丈、起きろよ。もう七時だよ」 「……」  全く反応がないので苦笑してしまう。昨日は夜勤で帰りが遅かったのもあるが、そろそろ起こさないと。今日は丈が仕事に行く前に、明日の準備をしたいから。あまりに起きないので、ゆさゆさと躰を揺すりながら、少し意地悪なことを言ってやる。 「おいリフォームしたら俺より先に起きて朝食作ってくれるんじゃなかったのか、あれは嘘か」 「ん……洋、何か言ったか」 「もう起きろって、流さんが朝食作ってくれているから、俺そろそろ手伝いに行かないと」 「駄目だ」 「駄目って? 」  その途端ぐいっと丈が俺の腕を引っ張り、布団の中へ引きずりこもうとした。 「ちょっ……もう朝だ」 「洋、少しだけ」 「まだ怒っているのか、急に軽井沢に行って2泊もしてきたことを」 「怒ってなんかない」 「じゃあ……もう機嫌直せよ」 「随分楽しそうだったな、特に2日目は」 「え? あれは……だってしょうがないじゃないか。松本さんにいろいろあり過ぎて、そのまま自宅に戻れる状態じゃなかったから。Kaiとホテルに泊まるから帰宅しないことを俺が説明に行ったんだよ」 「それは分かっている」 「で、その穴埋めに俺が泊るように言われて……あーもう言うなよ。翌日乗馬をちょっとしただけじゃないか。あの女性は何度も説明した通り、松本さんのお姉さんだし、結婚もしていてお子さんもいる人だよ」 「だが洋がその女性と子供と馬の前で撮った写真は……少し複雑だった」 「ごめん、カイトくんって子に懐かれちゃって。でも……丈でも、焼きもちやくんだな」 「当たり前だ」  丈が不機嫌そうに呟いた。  なんだかこんな丈が可愛く思え、俺の方から抵抗していた腕を緩めて布団の中へ潜りこみ、丈を抱きしめた。すると丈も俺の背中に腕を回し、躰をぴたりと引き寄せて来た。 「あっ……」  股間に丈のものが固くあたるのを感じて、思わず赤面してしまう。 「……丈の……朝から随分元気だな」 「ははっ昨日させてもらえなかった」 「なっ丈が遅かったからだ」 「良く寝ていたからな」 「最近準備で忙しいから」 「そうだな。明日だ、いよいよ」 「うん……そうだね。とうとう明日だ」  丈が俺の手首をシーツに縫い留めると、そのまま唇を合わせて来た。ぴたりとあえば、心臓がトクンと音を立てる。 「洋……」 「んっもうキスだけだぞ」 「最近の洋は可愛げがないな」 「そんなことない」 「じゃあ口を開け」  そっと丈の長い指先で、唇を開かれる。  歯列をなぞられると、むず痒い感じがする。  指先が口腔内に優しく触れていく。 「んっ……んんっ……」  次に顎を掴まれ、深い口づけを落とされる。舌を絡められ、逃げ場がなくなるような圧倒的な勢いで舐められる。息継ぎのため首を横に逸らすと、追いかけるように丈の唇が首筋へと降りて来る。 「あっ……ふっ……」  気持ち良くてゾクゾクして、思わず首を仰向けの状態で反らすと、喉仏をチュッと吸われた。はぁ……こんなキスをされたら、朝からおかしくなってしまう。 「おーーい! 丈、起きたのか〜洋くん、早く手伝ってくれ」  その時、渡り廊下から、流さんの大声がした。ビクンとお互い怯えるように震えながら苦笑した。悪戯が見つかってしまった子供みたいだ、こんなの。 「洋はもっと欲しくてたまらないって顔をしているぞ」 「意地悪だ」 「ははっさぁ残念だがここまでだ。明日が終えたら思う存分抱くから覚悟しておけ」 「ふっ……丈は相変わらずいやらしいな」

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