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花の咲く音 5

「じゃあ帰ろう」 「はい」  流さんと二人がかりで車に大量の食材を積み込んで、月影寺へ戻る。 「流さん、あの……」 「なんだい? 」 「いろいろ俺のためにありがとうございます。俺、出来る限り下ごしらえとか手伝いますから」 「ははっ! でもさ、洋くんは意外と不器用だよね」 「えっそんなことないです! 」 「くくっよく指切ったり火傷したりして、見ていて危なっかしいよ」 「そんなこと……」  指摘通りだ。確かにそんなことがあるかもしれない。小さな怪我をしては、丈にこっそり手当してもらっている。そしてそんな俺に対して、その都度丈は呆れた溜息をついている。 **** 「まったく洋は今日も怪我したのか。相変わらず不器用だな。まともに出来るのはおにぎりくらいだろう。ほら見せてみろ」 「言うなよ。これでも俺なりに一生懸命なのにっ」  丈が俺の指先を掴んで、しげしげと眺めている。今日は夕食にシチューを作った。うっかり鍋掴みをしないで蓋を掴んでしまい、軽い火傷を負ってしまったのだ。本当にちょっとヒリヒリする程度だから、氷で冷やしたし、もう大丈夫だって言ったのに……丈は本当に心配症だ。 「丈……もう痛くないし大丈夫だ」 「はいはい。なぁ洋……リフォームしたらミニキッチンを作るって話しただろう? 」 「うん、そう言っていたね」 「その横にストーブも設置してもらおうかと、お願いした」 「へぇなんか童話の世界ようだ」 「童話? 」  丈が目を丸くして驚いていた。 「なんか変か」 「いや洋はやっぱり可愛いな。童話だって」 「うるさいなっ。この前翻訳した絵本にストーブの上でシチューをコトコト煮るっていうシーンがあったからだよ」 「いやそういうのいいな。シチューの美味しそうな香りの中で甘い香りの洋を抱くのは、二重に美味しいんじゃないか」 「だ・か・ら! なんでいつもそうなんだ。俺は美味しそうじゃないし! 甘い匂いなんてしないっ」 「はははっそう怒るなよ。気が付いてないのか。お前は花のような香りがする」 「そんなの知らないっ、もういいから指、離せよっ」 「ふっ」 「何が可笑しい? 」 「いや、ツンツンしている洋も、私たちが出逢った最初の頃を彷彿させて、いいもんだな」  そんなことを言いながら……治療と称して、俺の指を口に含めて見上げて来る。丈の男らしい目つきに、俺はいつも囚われてしまう。 **** 「洋くん? 」 「えっあっはい!すいません。ぼーっとしちゃって」 「くくく、昨日寝かしてもらえなかった? それとも変なこと思い出していた? 」 「流さん! もう揶揄わないで下さいっ」 「いやいや……でも聞いてた? 俺の話? 」 「すみません」 「今日は何も手伝わなくていいよ。明日の主役が怪我したら大変だもんな」 「俺はそこまで不器用じゃないです。それにこんな量の下ごしらえ一人じゃ無理です」 「まぁね。正直言うと助手が欲しいかな。そうだなー洋くんみたいに可愛い子。もっと若くてぷりっとしたお尻で……ははっ、おっ! ちょうどいい子が歩いている」 「え? 」 「ほら、前方を歩いているあの男の子随分綺麗なスタイルだな。顔はどうかな」  前方と言っても、俺はそこまで視力が良くないのではっきり見えない。 「よく見えませんよ。まったく流さんは」 「見えないのか。よし追いつくぞ」  車がブンッとアクセルを踏んで追い抜かそうとする。俺もつられてその男の子の顔を見てやろうと振り返った。するとその男の子も速度をあげてくる車を不審に思ったのか、ぱっとこちらを見た。  その顔はなんと! 「あっ!」 「えっ?」

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