574 / 1585

花の咲く音 12

「あと少し……えっあ……うわっー」  岩場の上で白い花を掴もうと必死に手を伸ばしていると、ぶわっと突風が吹き抜けた。それは躰が揺らめくほどの強風で、思わず目を瞑ってしまった。 「あっ!」  なんてことだ! まずいっ!   そう思った時には、もう遅かった。不安定な岩場の上で、躰が大きくバランスを崩してしまったのだ足元が滑り、俺はそのまま真っ逆さまに滝へと落ちていく。  何かに掴まらないと駄目だ!   必死にもがくように手を上へと伸ばした。 「丈っ!」  ありったけの声を振り絞り、君の名を呼んだ。  なのに、俺の手が掴めたのは……か弱き白い花だけだった。  まるでスローモーションのような光景だ。さっきは大きく見上げないと見えなかった青空が、今は俺の躰の真上に綺麗に見えている。そして俺の躰はその青空からどんどん遠ざかていく。 「わぁっ!!」  ザブンっと大きな水音を立て、俺の躰は真っ逆さまに滝つぼへと落ちた。    滝つぼには、巻き返しと呼ばれる流れがあるのは知っていた。そのせいだ。一度沈んだ躰はまた浮いてくるが、すぐに流れに引き込まれて沈んでしまう。 「あっ! ゴボッゴボッ」  泳ぎは得意なはずなのに、流れに負けてしまう。  苦しいっ! このままでは本当に溺れてしまう!  いや駄目だ! こんなところで終わるわけにはいかない!  だが焦ってもがけばもがく程、ゴボゴボという水音と共に、俺の躰は沈んで行く。 「うっ」  薄れ行く意識の中で微かに思い出していた。  こんなことが、前にもあった!  そうだ……確かにあった。あの時は確か…… **** 本日も「夕凪の空」とリンクしています。 何やら不穏な展開ですが、物語はハッピーエンドですので、どうかご安心下さい。

ともだちにシェアしよう!