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完結後の甘い物語 『流れる星 5』
安志さんを通して、Kaiさんと松本さんを紹介された。
二人は恋人同士とのことで、隠しもせずに手を握り合っていた。といっても松本さんの方は、恥ずかしそうに始終俯いていたけど。
このKaiさんという人のことは、洋兄さんから何度か聞いていた。アメリカにも同行してもらい、ソウルでは洋兄さんを守り支えてくれた人とのことで、想像通り背がとても高く凛々しかった。そして笑うと人懐っこく隠し事が出来ないタイプなのか、僕の顔を見ると、あからさまに驚いていた。
「うわっ! 驚いたな。近くで見たら本当に似てるな。へぇ~お母さん同士が双子か。なるほど! で、安志がさっき話してたのは、この子だな」
「まぁな」
安志さんは僕のことを、どんな風に紹介してくれたのだろうか。
僕はちゃんと安志さんの横にいる?
暫くKaiさんたちと歓談していると、再び丈さんと安志さんが庭に現れた。
今度は丈さんは、グレーのビシッとしたスーツ。洋兄さんは淡いピンクにグレーの縦縞が入った柔らかい印象のスーツ姿だった。
「あ……これって、もしかしてお色直しっていうのかな」
「あぁ、そうみたいだな。母さんもたまには役に立つな」
「洋兄さんの和装もいいけど、こっちもいいね」
「あぁ本当にそうだな。でもああいう淡い色は、涼にも似合いそうだなぁ」
隣の安志さんも、目を細めて嬉しそうにしていた。
「洋くん、似合うよ」
「丈もなかなかいいぞ」
「洋装もいいな」
「そうかな。ありがとう」
洋兄さんが陽だまりの真ん中に立っていることが、僕も嬉しかった。
輪の中に、ひときわ艶やかに咲く美しい人だ。
洋兄さんのためにこんなにも多くの人が集まって、和やかに過ごせるなんて、僕にとっても信じられない程嬉しいものだと、ひしひしと感じていた。
実はさっきから僕は洋兄さんと最初に出逢った船上のことを何度も思い出していた。人目を避けるように、その美しい顔を目深に被った帽子で隠し、日陰で縮こまっていた洋兄さんの寂しげな姿。
僕は今ちょうどあの時の洋兄さんと近い年になっていた。
あの頃はまだ子供で深く理解できなかったけれども、人生の中で特に若く華やいだ時期に、あんな風に生きなくてはいけなかった苦労は、相当なものだったろう。あれから本当にいろいろなことが、僕たちの間にもあったね。
僕は安志さんと運命的にアメリカで出会い、それからアメリカのキャンプ場では丈さんに助けられ、そして洋兄さんにも日本で再会出来た。
不思議な巡り合わせが重なり、本当にここまで順調にやってきた。洋兄さんが背負ってきたものに比べたら、僕は本当に甘いだろう。
「涼、何を考えこんでいる? 」
「ねぇ安志さん、僕はまだ十代だ。きっとこの先いろいろなことが起こると思う。でも安志さんとのことは、生半可なうわついた気持ちじゃないんだ。それだけは知っておいて欲しい」
「涼、どうした? うん……ちゃんと分かっているよ。俺の方こそ、今日はまだきちんと母に紹介出来なくて、悪いな」
「大丈夫。今はまだその時じゃないこと理解しているんだ。でも絶対に辿り着きたい場所があるよ」
「それはもしかして……ここか」
安志さんの目が眩しそうに見開く。
「うん、今日丈さんと洋兄さんの辿り着いた場所。僕もそこへ行けるように、モデルの仕事も、学生としての本分も、ちゃんと両立して頑張っていきたい。安志さんと並んでも恥ずかしくないように…頑張りたい」
「あぁ、涼ならきっと出来るさ」
「安志さん、それまで待っていてくれる?」
「当たり前じゃないか。俺はもう涼以外は考えられないよ」
じんとした。
その言葉を信じられる。
安志さんは、この寺の竹林のように真っすぐで大らかな心を持った人。
「本当に待っていて。僕はまだ親がかりの子供だけど、絶対にそこに行くから」
「待ってるよ……涼。俺の方も頑張るから」
そんな話をしていると、洋兄さんの声と共に頭上から突然、花束が降って来た。
「涼、受け取って!」
それは僕が今朝、崖の上から取って来たオーニソガラムの花束だった。白く光る星のような花が、まるで流れ星のように、僕と安志さんのもとに飛び込んで来た。
スターオブベツレヘム。
それは……僕たちの希望の星となるだろう。
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