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完結後の甘い物語 『流れる星 6』

 皆を見送って、丈と二人で俺達の部屋に戻った。それから丈が風呂に行っている間、俺はだんだんと暮れ行く空を、窓辺に腰かけて眺めていた。  じき日が暮れて夜が訪れる。  今宵は良く晴れていたから、きっと星が見えるだろう。  折しも七夕の夜だ。  鎌倉では天の川までは観ることは出来ないだろう。  でも……こんなに澄んだ夜だから……もしかしてという気持ちも高まる。  それにしても本当に幸せ色に染まる時間だった。  こんなにも多くの人が俺たちのために、集まってくれるなんて未だに信じられないような気持だった。  俺はそっと、この数年間の激動に想いを馳せてみた。  全て終わり、そしてここから始まる。 「洋、お先に。洋も入っておいで」 「うん、そうするよ」  丈がさっぱりした顔で戻って来たので、俺も入れ違いで風呂を使わせてもらった。母屋の風呂場を出て居間を通り過ぎようとした時、翠さんが一人で座っているのが見えた。  なんだか元気がないような気がして立ち止まってみると、手には空のグラスがあった。ウイスキーをロックで飲んでいるのか、ボトルの中身が随分減っていた。 「ふぅ」  深いため息だ。  うすはりのグラスが割れそうなほど、翠さんはきつく握っていた。  それから、氷がカランとグラスにぶつかる音が響いた。  それは、何故か虚しくも寂しい音だった。  翠さんがあんなにお酒を飲むなんて、珍しい光景だ。  立ち止まる俺に気が付いた翠さんと目が合ったので、何か話さないと……焦ってしまう。 「あっあの……こんばんは」 「あぁ洋くん。風呂に入ったのか」 「あ、はい、お先にすいません」 「いや今日は疲れただろう。結婚式というものは、想像以上に気を張るからね。さぁもうゆっくり休むといいよ」 「はい……あの……」 「んっ何?」 「何かあったんですか」 「えっ何故?」  途端に見透かされたような気まずい表情を、翠さんが浮かべたので、余計なことを聞いてしまったと後悔した。 「いえ……何でもないんです。でも」 「君は優しい子だね。周りをよく見ていて。君なら安心だよ。あの子が来ても、きっとうまくいくね」 「あの子って」 「いや、なんでもないよ。また改めてちゃんと決まったら話すよ」 「分かりました。あの……翠さんも早く休んでください。疲れているようだから」  いつもの翠さんらしくない弱気な感じが気になった。  それにあの子とは、一体誰の事だろう。  もう少しここにいようか。  迷っているとヒョイと流さんがやってきた。  そして翠さんを見つけるなり、ほっと安堵の溜息をつきながら、翠さんの腕をひっぱった。 「翠兄さん、ここにいたのですか。ほら、もう飲み過ぎだ」 「流……大丈夫だよ。でも……少し酔ったかも。酔いを醒ましたいな」 「まったく、ほら立って、部屋に戻りましょう」 「いや…外に行きたい」  途端に流さんの表情が強張った。 「何言ってるんだよ。もう何時だと?」 「あそこに行きたい……」  その甘えるような声に、流さんは小さく震えた。  怒っているのか困っているのか。  向こうを向いているので、表情まで読み取れない。 「駄目だ。あそこは駄目だ」 「何故? 今日は七夕なのに……」 「翠兄さん」  なんだか段々、翠さんと流さんの立場が逆転していくようで不思議な気持ちで見ていたが、同時になんだか猛烈にお邪魔のような気がして、その場をそっと離れた。  翠さんと流さん。  空に輝く星のように孤高な雰囲気を漂わせてる翠さん。  流れる星のように躍動感のある流さん。  今日から俺の兄になる人たち。  この二人の関係に、見えない何かが潜んでいるような気がした。

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