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完結後の甘い物語 『流れる星 7』
「どうした? 洋、変な顔をしているな」
翠さんと流さんのことを考えながら離れの部屋に戻ると、丈にすぐに指摘された。
「そっそう? 」
「まったく、今度は何があった? 」
「ん……いや……」
これは言うべきか言わないべきか迷うところだ。俺はまだこの家に来て日が浅いから、あまり丈の兄弟について偉そうに口出しはしたくはないし。それでもやはり先ほど見た翠さんと流さんの会話が気になっていた。翠さんがあんな風に酒に飲まれ、流さんに甘えるような様子を見せるなんて、今まで見せたことがなかったから。
「おいで、こんな日に浮かない顔はないぞ」
丈が布団の横のテーブルで、日本酒を飲んでいた。その手に招かれ隣に座ろうとしたら、胡坐をかいている丈の脚の間に座らされた。
「えっここ?」
「そう、ここ」
「丈は相変わらず、いやらしいな」
「何言ってる? 待たせたからだ。さぁ飲もう」
丈は俺の腰に左手をまわし、器用に右手で良く冷えた日本酒を、赤ワイン用の大きく膨らんだグラスに注いでくれた。
それから氷を二つ日本酒の中へと浮かべた。氷はグラスの中でくるくると回り、やがてぴたりとくっついた。くっついた氷はもう離れない。
「不思議だな。なんでこれ、くっついた? 」
「あぁそれは飲み物は氷に比べて高い温度になっているから、氷の表面が解けてその氷の表面の近くにある飲み物も氷や解けた水に冷えるから、一旦融けた水が氷によって熱を奪われ再凍結し、氷同士がくっつくのだ」
「うわっ。丈、随分難しいことを言うな」
「まぁ平たく言えば、2つの氷の間の水が凍り、それが接着剤の役目を果たすからだろう」
「接着剤か、ふふっ」
「なに笑ってる?」
「いや……俺達も氷みたいに今くっついているなと思って」
「あぁそうだな。二人でくっついている。なぁ洋……二つ、二人、二とうい数字はいいな」
「そうだね」
「もう一人相手がいれば、くっつけるからな」
何故だか丈が、少し寂しな気がした。
「丈……君はもしかして……今まで寂しかった?」
「何故だ?」
「お兄さんが二人いるけれども、その……翠さんと流さんが仲良しだったから」
急に話したくなった。さっき見てしまった光景のことを思い出したから。
「あぁ、また居間で兄達が仲良くしてたのか。だからあんな不思議そうな顔をして戻って来たのか」
何故分かったのか。そんなに俺は分かりやすいのだろうか。
「あ……でも、丈もお兄さんたちに可愛がられているだろう? 末っ子だし」
「さぁどうだか。私から見たらずっと二歳ずつ違う兄達は、随分遠い存在だったからな」
「そうかな。でも今は違うだろう。丈のことを可愛い弟だと思っているはずだよ」
「そうだな。確かに洋のことがあってから……最近は様子が違うかもしれない。でも昔は……兄二人の世界に入れないでよくいじけていたのだ。天の邪鬼だからそれを悟られたくなくて、強がって無関心なふりをよくしていたものだ」
丈から聞く話は新鮮だった。
「へぇ……そんなことが」
「まぁ誰がどっちにつくかで、三人共、同性というのは喧嘩の種でもあったしな。それでも翠兄さんは分け隔てなく接してくれたが。流兄さんは翠兄さんのことが大好きだったから、私に取られたくなかったんだろうな、きっと」
「そうだったのか」
確かにさっきのあの二人の様子を見ていれば分かる。他人が入り込めない独特の空気だった。
「だがもう寂しくないな」
「ん?」
突然丈の手が、着ていた浴衣の袷の中へと滑り込んで来た。
「わっ!」
冷房の効かない部屋は暑く、風呂上がりなのに汗ばんだ皮膚なのに、丈の長い指先が触れるとぞくぞくした。
「丈っいきなり触るなよ! グラス落とすところだった」
「ははっ悪い。感じたか。私にはこれからは洋がいるからな。私だけの洋だから。さぁもういいだろう。もう二人きりだ」
「あぁ……そうだな」
俺がそっとテーブルにグラスを置くや否や、丈に浴衣の襟元を大きく剥かれ、露わになった首筋に口づけされた。
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別途連載中の「忍ぶれど…」は、丈の二人の兄の物語です。丈が生まれた時から物語は始まります。
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