「分かりましたよ。じゃあ私たちはそっちの部屋を使いますから」 「それがいい。そうだ丈、今日は何をするつもりだ？　」 「そうですね、早速海に行きましょうか」 「お！　いいな。翠兄さんにとっておきの水着を持って来たから楽しみだ」 「……はぁ、では三十分後に」 「洋、さぁ部屋に入るぞ」 「あっうん」 　私と兄のやりとりをキョトンとした顔で見ていた洋が、慌てて後を付いてくる。 「翠兄さんは、こっちですよ」 「なぁ流……水着って何のことだ？　」 　翠兄さんは流兄さんに促され、リビングを挟んで真逆の部屋へ入って行った。部屋同士はリビングを挟んでなので、しっかり離れているな。 　とにかくそれぞれの部屋でまずは荷解きをすることにした。 　その後は、ホテルの客しか立ち入れないプライベートビーチに行く予定で合意している。 　南国の太陽、南国の海。 　どこまでも明るい世界を早く洋に見せてやりたい。 　思う存分、自由を感じさせてやりたい。 　部屋のことはともかく……砂浜を走りまわる洋を想像すると、思わず笑みが溢れた。 　翠兄さんが勧めてくれたバスルームに直結しているツインルームへ、洋を連れて入った。 　すぐに開き戸の扉を全部閉め、下方に鍵がありロックできるようになっていたので、しっかりとかけた。これで安心だ。といっても防音面では甘く、声が丸聞こえのようだが。 　部屋にはゆったりとしたセミダブルのベッドが二つ並んでいて、リネン類も全て真っ白で清潔感が溢れ、申し分ない。大きな窓は出窓風になっており、白いカウンターには燦燦と明るい光が降り注いでいた。 　洋はカウンターに手をついて身を乗り出し、目を細め海を眩しそうに眺めていた。 「すごいな。寝室からも絶景だよ、まさにオーシャンビューだな」 　子供のように目をキラキラさせてはしゃぐ洋の躰を、私は背後からギュッと抱きしめた。 「んっ丈……何？　部屋の事、もしかして怒ってるのか」 「いや……怒ってない。これはこれで楽しみが増えた」 「どういうこと？」 　不思議そうな表情を浮かべ振り返った洋の細い顎を掴みクイっと上を向かせると、素直に洋もそれに従う。 　洋の瞳の中に、私が映っているのが見える程の至近距離だ。その淡く開いた形の良い桜貝のような唇を指ですっと触れてみた。 　優しい弾力のある健康的な唇。うっすら見える白い前歯も可愛い。 「洋、静かに出来るってことだよな？　」 「え？　」 「こんなことしても、兄さんたちに気が付かれないように、声出さないってことでいいか」 「何？　」 　チュっと唇を重ねていく。啄むようなキスの後はぐぐっと舌をいれて深めていく。 「んんっ……」 　動揺する洋の両方の手首を掴んで窓ガラスへ押し付け動きを封じ、目を閉じてキスを続ける。じわっと汗をかくほどの暑い日差しを浴びていることが、目を閉じていても全身に感じられる。 「んっ…あ……」 「静かに。声を出したら兄さん達に聴こえてしまうぞ」 「あ……駄目だ、丈……だって海に行くんだろ」 「もう少しだけ」 　可愛い恋人の唇は、いくら吸っても吸い足りない。 　必死に声を出さないように、目をぎゅっと閉じている様子が可愛い。 　キスだけで感じてしまう躰にしたのは私だ。 　散々意地悪をした後、掴んでいた手を解放してやると、洋は肩で息をして震えていた。 「はぁ……はぁ…丈っ」 「悪いな。これは練習だ。夜はこんなもんじゃ済まないだろうがな」 「丈は意地悪だっ」 　洋は怒っているようで、笑っていた。そして自分から私の首に手を回し、唇をもう一度合わせて来た。 「丈こそ、覚悟しとけよ」 「おいおい、いつからそんなこと言えるようになったんだ」 「今日からさ」 　肩を揺らして洋が朗らかに笑う。 　そんな可愛い恋人にはやっぱり意地悪をしたくなる。私はこんな性格だったか。 「洋、余裕だな。でも果たして夜まで笑っていられるかな」 　まずは持って来た水着をちゃんと着てもらおうじゃないか。恋人に自分好みの水着を着せるのが、とても楽しみだ。 　そういえば、流兄さんも翠兄さんに水着を用意したと言っていたな。最近本当に私は流兄さんに似て来たのかもしれないと思わず苦笑してしまった。 「丈、何笑ってる？　」 「あぁ楽しみがあってな」 「うわっ！それ、なんか嫌な予感がするよ」 「はははっ」 　洋が白い歯を見せながら笑ったので、私の方もつられて笑った。 　明るい部屋に広がる明るい笑顔、明るい笑い声。 　洋と私で、今までにない時間を作っている。 　じわじわと実感していく……これが新婚旅行の始まりだと。 …… こんにちは！志生帆 海です。 連日甘ったるい話が続いています。こういう内容で需要があるのか不安でもあります。 今までは展開のアップダウンが多い切ないものを書いて来たので、まだ慣れませんね。 パワーアップしたエロい新婚旅行になりますようにと♡ 一方……『夕凪の空 京の香り』は夕凪の決意の大切な場面です。 『忍ぶれど…』は翠さんが男子校に通う高校1年生、流が中2と多感で美味しい時期などもたっぷりと描いています。制服姿の二人に勝手に萌えていました。 単体でも読めるように書いていきますので、よろしくお願いします。いつもリアクションやコメントをありがとうございます。