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完結後の甘い物語 『蜜月旅行 10』

「洋、何をふてくされている?」 「別に……」 「くくくっ、それにそんなに着込んで。さぁせめてラッシュガードは脱ごう。背中に日焼け止めを塗ってやるから横になれ」 「……イヤだ」  ちらちらと遠巻きに感じる女の子の厳しい視線が、さっきから突き刺さるんだよ。  そんな状況で、俺が背中に日焼け止めを塗ってもらったら変だろう。  男が男に……そんなこと分かっているくせに。丈は意地悪だ。 「その通りだ。洋くんも潔く脱ごうぜ! 君は肌が白すぎるからもう少し日焼けした方が逞しくみえるよ」  隣で褌一丁という大胆な姿で胡坐をかく流さんが、快活に笑っている。  え……日焼けしたら逞しく見える?  その言葉に少し惹かれるが、でもこんな裸同然の姿を公衆の面前に晒すなんて、俺にはやっぱり……どうしても無理そうだ。 「しかし翠兄さん、褌っていいもんですね」 「そうなのか」  翠さんが流さんの褌姿をまじまじと見つめた。少し頬が赤いのは気のせいか。 「確かに流にはよく似合っているが、そんなに着心地も良いのか」 「ええ、開放感一杯の世界に浸ることができますよ。 あまりの気持ちの良さに、これは病み付きになりそうです」 「へぇ……そんなにいいのか」  翠さんが身を乗り出して興味深そうに尋ねる。  あれ? なんかまずい雰囲気じゃないか。  ちょっと待って……翠さん……それ単純すぎる。 「そりゃそうですよ。そもそも暑い季節に褌一丁での生活は、少し前の日本の男には至極当然のことですからね」 「確かに褌って、古来からの伝統だね」 「ええ、燦々と降り注ぐ宮崎の太陽のもと、こうやって褌一丁でいると、心が癒されゆったりとした気分でこの休暇を謳歌できますね」 「ふぅん……そんなにいいのか」 「ええ、これは男冥利に尽きます」  流さんの演説に、ますます力が入る。 「そっか、流がそんなに言うのなら……僕も褌に挑戦してみたくなった」  途端に『釣れた!』とでも言いたげな満面の笑みを、流さんが浮かべた。 「本当ですか。兄さんなら絶対そう言うと思って、ちゃんと予備も持ってきましたよ。兄さんもせっかく若住職の重たい袈裟を脱いでいるのだから、褌に挑戦してみるといい」 「そうだね。でもどうやってつけるんだ? 流はよく一人で出来たな」 「ははっちゃんと予行練習を……さぁさぁ兄さん、もう一度更衣室にいって着替えましょう」 「うん、でも出来るかな。なぁ……流が着せてくれるのか」 「心配しなくても、もちろん俺が全部やってあげますよ。さぁ行きましょう」  頬を赤らめた流さんが嬉しそうに答え、翠さんを立たせ更衣室に意気揚々と向かおうとした。 「ええっ! ちょっと待って下さい! 翠さん、おっ俺を裏切るんですか! 」  思わず縋りつくように呼び止めると、振り返った翠さんは、俺の水着姿を改めてまじまじと見つめ……ふんわりと微笑んだ。 「そうだ洋くん。君もラッシュガードなんて脱いで、この太陽に肌を晒すべきだよ。丈、日焼け止め塗ってあげるといい」 「ええ、翠兄さんそうしようと思ったところです」 「そんなっ」 「くくっ洋、観念しろ。あの翠兄さんが褌になるっていうのだから、それよりましだろ。男のくせにラッシュガードなんて着込んで、さぁ脱げ」  ラッシュガードのファスナーに、すっと丈の指が伸びて来たので、思わず一歩退いて叫んでしまった。 「じっ自分で脱げる!!!!」  思ったより大声だったのか、それを聞きつけた周りの女の人たちの冷たい視線が飛んできて、もうクラクラと眩暈がしてきた。  この三兄弟……癖ありすぎだ!

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