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完結後の甘い物語 『蜜月旅行 25』

 いつになく狼狽えた表情を浮かべた丈の視線が、手に握っている水着へと落ちて来た。  嫌な予感。  俺は水着を握る手に力をギュッと籠めるが、あっという間に取り上げられてしまった。 「えっあっ」  こういう時丈と俺との間に、体格や体力差がかなりあることに腹が立つ。俺だって丈を受け入れる方ではあるが、これでも男なんだ。こんな簡単に力づくで、何かをされるのは嫌だ! 「返せよ!それは俺の水着っ」 「……いや、もともとは私のだ」 「何言ってんだよっ。だってそれはっ」 「私のものだ」  そんなことを言い合っているうちに、丈は何食わぬ顔でさっさと奪い取った水着を身に着けてしまった。 「ひっ酷い。俺はどうするんだよ! 岩場は人気がないが、砂浜に戻れば大勢の観光客がいるの分かっているのに……俺に水着なしで、どうやってあそこへ戻れっていうんだよっ!」  頭の中に沸々と、丈に対する怒りがこみあげて来る。 「大丈夫だよ。洋のことは私が抱いていってやるから、洋の大事な部分を人に見せるなんてことは絶対にしないから」  唖然とした。  真っ裸の上、男に抱かれて戻ったら……それこそ変態扱いされてしまう。  丈、おっお前……ここに来てなんか性格変わった?  新婚旅行を言い訳に羽目を外し過ぎだよ。  丈が俺のこと本気で抱きあげようと近づい来たので、思わず大きく一歩後ずさりしてしまった。そして、もう半泣き状態で叫んでいた。 「丈っ酷い! 水着をなくしたのは丈の方なのに、なんで俺に恥をかかすんだよっ」  流石にこの言葉に反省したのか、丈は一瞬だけすまなそうな顔をしたが、あろうことか更に暴言を吐いてきた! 「それはそうだが……洋のものなら、私の手で十分隠せるだろ。さぁ、兄さんたちも心配しているし、それで戻ろう」  図星を差されたような男としてのプライドを傷つけられ侮辱されたようで不快だった。確かに俺のは……丈の立派なものに比べたら遥かに小さいとは思うけど……もうっあんまりだ。  手で……手で隠せるサイズだなんて! 「なっなんてこと! 絶対に嫌だっ! こんな姿じゃ戻れないっ」  怒りや羞恥心で溢れた躰は足元がおぼつかなくなり、ぐらっとふらついてしまった。すると、黒い人影がゆらりと近づいて来たのを感じた。 「誰っ?」  真っ裸な自分の状態に焦って、俺は丈の後ろへ逃げ込んだ。 「……丈、洋くんにこれ以上酷いことをするな」  窘めるような張り詰めた厳かな声……この声は翠さんだ! 「そうだぜ。丈っ。お前って相当な変態だなぁ、ははっ」  豪快な笑い声は、流さんだ。 「え……なんで、二人がここに?」  丈も気まずそうな声だ。  この状況……当たり前だろう。 「洋くんは、水着を着ていないね」 「え……あっ」  何て答えたらいいのか、半ばパニックで分からなくなる。水着を着ていないこと見られた。いや、それだけじゃなくて、いつからだ? まっまさか、あれを……丈に抱かれていたのも見られた?  いよいよ顔も躰も、ポンと火がついたように真っ赤になって熱を帯びて来る。そっと丈の背中から翠さんを伺うが、寺にいる時のように達観した表情をしていた。 「その姿では、向こうに戻れなくて困っているよね。可哀想に、さぁ僕の水着を貸してあげよう」  そう言いながら翠さんは、迷うことなくサーフパンツを一気に脱ぎ捨てた。すると、するりと白い褌姿の翠さんが現れた。  ほぼ裸体といってもおかしくない状況なのに、とても凛とした佇まいだ。変に恥ずかしがったりしていないのが、またいい。  すっとした立ち姿。華奢だけどすらりと伸びた長い手足が美しく、白い褌すらも翠さんの清楚な雰囲気を増すアイテムのようになっている。  思わず見とれてしまった。繊細で儚げなのに、いざという時の潔さが、翠さんの魅力だ。 「わぁ……」 「はい。洋くん、これをどうぞ」  微笑みながら俺に水着を渡してくれる翠さんが天女のように見えて、思わず目をゴシゴシと擦ってしまった。丈のお兄さんは本当にすごい。 「あ……ありがとうございます」 「丈、たいがいにしないと怒るぞ。洋くんをこれ以上困らせてはいけないよ」 「翠兄さん……すみません。羽目を外し過ぎました」  厳しい兄として、弟を諫めるような口調だった。  俺が水着を着て、ほっと安堵の溜息を漏らしていると、丈もさすがに長兄の翠さんに頭が上がらないのか、素直に謝っていた。 「洋……悪かった。すまなかったな」 「んっ……もういいよ」 「興奮しすぎたようだ……お前の躰があまりに良すぎて」 「じょっ……丈っ!黙れっ!」  謝るかと思ったら、また余計な一言を!  俺は丈に飛び掛かり、その口を塞いだ。 「はははっ実に面白い! そっかそっか躰が良かったからか」  追い打ちをかけるように、背後から腹を抱えて笑う流さんの声が響いてきた。    流さんは始終ご機嫌で、翠さんの白い褌姿に釘付けのようだった。

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