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完結後の甘い物語 『蜜月旅行 24』

 岩場で我慢出来ずに放出してしまったものを、波は綺麗に拭い去ってくれた。  さっき僕がしてしまった行為は早く忘れたい。この波にすべて持って行ってもらいたい。汚れた感情で……やましい想いで、絶対に見せてはいけないものだから。  恥ずかしくもどかしく切なくて、持て余してしまう感情の捌け口として、じわっと込み上げて来た涙を拭いながら願った。そう誓った。  ところが、ふと視線を感じ辿ってみると、岩場の陰に流が立っていた。慌てて視線を逸らそうとしたのに、バチッと絡み合ってしまった。  あぁ、なんて気まずいのだろう。  いつから居たんだ? まさかさっきのことを見られていないよな。心臓が一気に飛び跳ねて息苦しいほどだった。こんな風に動揺していることを、悟られてはいけない。さっきまで辺りに人はいなかったのは確認済みだ。きっと流は今来たばかりのはずだ。  仏門の滝行で煩悩を洗い流した日々のことを必死に思い出し、躰を一気にクールダウンさせた。そして何食わぬ顔で、流に手を振った。だが流は手を振り返すことなく、また海中に潜ってしまった。 「あれ? また泳ぎに行ったのかな」  とにかく今すぐ流と顔を合わせるのが気まずかったので、ほっとした。  そんな安堵もつかの間、目の前に突然流が現れたものだから驚いてしまい、腰が浮いたはずみで岩場からズルット海の中へと滑り落ちてしまった。  ふいを突かれた形で海にドボンっと沈む躰。まずい!これじゃまた溺れてしまう! だがその瞬間、また流に助けられた。いや正確には抱きしめられた。  気が付けば下半身は海の中、上半身は南国の太陽の陽射しを浴びるという形でぎゅっとキツク抱きしめられている。  えっ……なんで僕は流に抱きしめられて……? 「りゅっ…流? なっ!なんで?」  強く抱きしめられて、身動きが取れない。  流がこんなに強い力を込めるなんて。  流と直に密着する肌には、底知れぬ熱を孕んでいる気がして怖くなった。  流に触れ、擦れる乳首が信じられないほどむず痒かった。  流が怖い。いや、それよりも自分自身が怖い。  流の肌に触れているのが心地よいと感じる自分が怖い。  僕の萎えたはずのものが、また芯をもっていくような兆しを察し、激しく身をよじり抵抗した。このままじゃ駄目だ。大変なことになってしまう! 「離して……どっどうしたんだ? 一体!」  流の躰から離れようと、必死にもがいていた。だが、もがけばもがくほど、抱きしめる腕の力が強くなってしまう。 「流、おいっ! もういい加減に離せ! 怒るよ!」  もう限界だと思い、強い口調で窘めてしまった。だがその言葉は、逆に流を煽ってしまった。  流が重い口を開いた。 「……兄さん。俺は…ずっと翠兄さんのことが…」  えっ……流……何を言うつもりだ。まさか、よせ……駄目だ…その先は言ってはいけない。日に当たった上半身は、汗が滲むほどの熱を持っているのに、首筋に冷や汗が流れた。  気まずい沈黙。  もう頭の中がパンク寸前だった。  ところがその時、流と僕の気まずい静寂を打ち破る声が届いた。 「丈の馬鹿っ! なんで俺の水着を履くんだよ。 俺はっ! 俺はっ…どうしたらいいんだ!!」  洋くんの震える声は怒っているというより、涙声にも聞こえ、可哀想になった。流も同じことを思ったのか、ふっと抱きしめる力が緩んだので、僕はそのタイミングで躰を離してくれた。 「大丈夫だ。洋のことは私が抱いていってやるから、洋の大事な部分を人に見せるなんてことは絶対にしないから安心しろ」 「丈っ酷い! 水着をなくしたのは丈の方なのに、なんで俺に恥をかかすんだよっ」 「それはそうだが、洋のものなら私の手で十分隠せるサイズだろう。さぁ、兄さんたちも心配しているし、それで戻ろう」 「なっなんてことを……絶対に嫌だっ!こんな姿じゃ戻れないっ」  恐らく真っ赤になって怒っている洋くん。  もう半泣き状態なんだろう……声が涙でくぐもっていた。  可哀想なのに何故だかそんなことで大騒ぎしている二人の会話が微笑ましくて、ふっと頬が緩んでしまった。すると、流の豪快な笑い声が耳に届いた。 「はははっ、丈は立派な変態だな! 憐れ……いや、可哀想な洋くんだ」  明るい声に誘われ流の様子を確認すると、さっきまでのあやしげな気まずい雰囲気は綺麗に消えて、いつもの大らかな流に戻っていたので、ほっとした。でも少し残念な気持ちも。 「しょうがないな~そうだ! 兄さんのその水着を貸してあげたらどうですか、あれじゃ洋くんがあまりに可哀想でしょう」 「えっ!」

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