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完結後の甘い物語 『蜜月旅行 41』

 俺の躰がふわりと降ろされた先は、月見台の上だった。  月光の降り注ぐ高床式の床。  床は竹簀の子で凸凹としていたが、ちょうど人が一人横になれるほどの同系色のマットが敷いてあったので、痛くはなかった。  俺をそこに寝かすと、すぐに丈が俺の上へと跨った。そのまま身をかがめ俺の唇を奪いに来る。チュッっというリップ音が連続して奏でられた後に、耳元で囁かれた。 「洋……月見台というのは桂離宮にもあるそうだ」 「そうなのか」 「あぁ、少しでも月を近くで愛でたいと願う、昔の人々の想いで作られたものらしい。名月が正面に見えるように設置されていて、しかも池に面しているので、同時に月影(池波に映る月)も楽しめるそうだよ。まさにこの温泉の離れは、それを模して建てられたそうだ」 「へぇ丈はいろんなことを知っているんだな」 「まぁ……大事な新婚旅行だ。いろいろ行先について調べたのだ」 「ありがとう……」  そのまま、丈の唇が俺の首筋を撫でるように滑り落ちた。  温泉内ということもあり、すでに裸同士の躰をぴったりと重ね合い、俺の両手は丈によって一つにまとめられ、頭上にあった。  手すりがなく高さのある空中に掲げられた床の上で、このような体勢を取らされると、月見台から転げ落ちてしまわないか怖くもなったが、逆に浮遊感のようなものを感じることが出来た。  丈がそのまま俺の乳首を再び愛撫しだすと、蕩けるような疼きが沸々と体のあちこちで芽生え始めていく。 「あっ……あ」  一番弱い乳首を、まるで紙縒りを作るように弄られると、一気に下半身に熱が沸く。  さっきから丈の肩越しに、真珠のように瞬く月が見え隠れしている。その月を包み込むように、露天風呂から上がる蒸気が雲のように棚引いている。  なんだか、この世ではない何処かにいるようだ。  いや、この世ではない何処かに行けそうな気がしてきた。 「丈、月見台とは、まるで時を渡る船みたいだな」 「洋? 不思議なことを言うんだな」 「月が俺達を運んでくれるような気がして」  おかしなことを言っただろうか。  丈の表情が急に曇り、俺のことを不安げに見下ろして来た。 「どうした?」 「あぁ……いや」  頭の中に浮かんだことを消すように、ブルっと丈が頭を振った。その様子に何故か切なさがこみ上げ、俺はそっと丈の頬に手を伸ばした。 「どうした? 話してくれ……ちゃんと。今の話の何が不安だ?」 「いや……月見台の上で、躰を開き、私の愛撫で徐々に赤く染まっていく洋が、あまりに綺麗で……儚げで……このまま消えてしまいそうだったから不安になった」 「馬鹿だな。俺は消えないよ。この世が最後なんだ。俺達が洋月やヨウの願いを叶えられたのだから、もう消えたりしない。俺たちはこの世で精一杯生きて、寿命を全うする。最後まで君と一緒に生きていく。そう誓ったじゃないか」 「あぁそうだな。ずっと一緒だと」 「そうだよ。大丈夫だ」 「なんだか……洋の方が最近はしっかりして来たな。私は最近どんどん弱くなってきているような気がするよ」 「丈それでいいんだよ。たまには俺に甘えて欲しいから、嬉しい」 「そうか? 洋……逞しいな。じゃあ後ろを向けるか」 「うん?」  促されてマットの上で、四つん這いの姿勢を取った。こんな服従のような姿勢は、丈にしか絶対に見せたくない。そのまま丈の指が、俺の二つの丸みを割って入って来た。いつものように指で解される……そう思っていたら、いつもと違う感触に腰が跳ねた。 「えっ! 何?」  下半身を濡らす感触が、じわっと伝わってきて驚いた。しかも次に届いたのはぴちゃぴちゃという濡れた音だ。 「あっ……いやっ…それは嫌だ!やめろっ」  柔らかく弾力のある舌で、一旦閉じてしまった蕾を丹念に濡らされていることに気が付き、必死に抗うが、もうその時には身動きができないほどの力で押さえつけられていた。 「洋、じっとして。甘えてもいいんだろう?今日は……洋のここを舐めたい」 「そんなっ! 丈……やっ」  丈と何度躰を重ねても、一番恥ずかしく慣れない行為を、このタイミングで受け入れることになってしまった。 「んっ…ん…」  徐々に温かい舌先が尖り……やがて躰の中にクチュリと卑猥な音を立てながら侵入して来てしまった。 「あっ……やぁ…」  恥ずかしさと気持ち良さが交互に込み上げてきて、涙で視界を濡らした。 「もう……いやだ。変になる。あっ…気持ちいい……」

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