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『蜜月旅行 75』明けゆく想い

 あっまずい。  注意されたばかりなのに、ずっと「翠」と呼び続けてしまった。駄目だ、これじゃ。もっと気を引き締めていかないと。  兄さんの覚悟を聞いてほっとしたのと同時に、胸に誓った。兄さんが守りたいものは、俺が守りたいものと同じなのだから、絶対に周囲に俺達の関係がバレないように気を配っていく。どんなことでも協力する。「兄さん」という、いつもの呼び方と丁寧な言葉遣いを決して忘れるな。  やがて丈と洋くんが戻ってくるようで、馬の蹄の音が遠くから聞こえて来た。 「兄さん……最後に一つだけ聴いてもいいですか」 「……なに?」 「その……躰はきつくないですか」 「んっ? 躰って」 「だから……その昨夜の……」 「……あっ」  いつも澄ました兄さんの顔が、途端に火が付いたように赤く染まってしまった。だが本当は朝起きてすぐに聞きたかったことなんだ。  兄さんは男を受け入れるのは初めてだったから、躰はさぞかしきつい状態のはずだ。俺の方も冷静に兄さんの躰を傷つけないように自制したつもりが、最後の方は何かがふり切れてしまっていた。  兄さんの後ろの初めては、俺のものだった。  そのことが本当に嬉しかった。  やはりあの時……最後までは無事だったのか。何もなかったのだな。  ずっと心配していたんだ。もしかしてと。 「……」 「えっ? 小さすぎて聞こえませんよ」  兄さんが蚊の鳴くような声で何か喋った。 「だから……」 「なんです? ちゃんと話して下さい」 「その……い……痛かった」  あああ、やっぱり。  その言葉に頭を抱えてしまった。  そうだよな。俺は余裕なくて、指まではなんとかじっくりことを進められたのに、いざ挿入したら、兄さんの中があまりに熱くて蕩けるように気持ちよくて、初めてそこに男を受け入れた兄さんが痛がって泣いていたのに、もう途中で抜くことなんて出来なくて、半ば強引に進めてしまったことを認めざるを得ない。 「兄さん、すまなかった。理性ぶっ飛んだ」 「いいんだ……その……あれ位、耐えてみせる」  はっ? 耐える?  いや、それはちょっと違うような…… 「え? 耐えてって……兄さん、あれは修行じゃないんだからっ」 「あっ、ははっ、……それもそうだな」  途端に面白そうに笑う兄さんの様子に拍子抜けした。  いや、でも翠らしいよ。そういうところ。  次はもっと気持ち良くしてやりたい。  俺のカタチを忘れないうちに、また抱きたい。  その言葉は、今は呑み込んでおいた。  兄さんには刺激が強すぎるだろうから。

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