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引き継ぐということ 28

「ふぅ」  あまりに夢中になって額に汗が滲んで来たので、腕で汗を拭うと薙くんと目があった。なんだか不敵な笑みを浮かべているので、ついムキになってしまう。 「何?」 「ぷっ」 「なんで笑うの? 」 「だってさ、俺なんか相手に真剣になって競争してくれておもしれーなって」 「え? だって競争しようって、薙くんが言っただろう?」 「そんなんで今までよく生きて来れたね! それにとっくに俺の勝ちだよ。ほら見て!」  机の上を見ると、同じ形の三角おにぎりがずらりと並んでいた。白いお皿の上からはみ出るほど、十個以上も。それに比べて俺は、まだたった四個だ。 「えっいつの間に? 」 「洋さんが馬鹿丁寧に具を二種類入れている間にさ」 「あっそうか」 「今頃気がついたの? ははっ」  それもそうだろう。具を二種類入れる手間を考えたら競争になんてなるはずもない。でもこの家に越してきてからはじめて一人で作る俺だけのおにぎりだったから。  翠さんや流さん、丈にも久しぶりに、そして薙くんにも食べてもらいたい。  そう願ったから。 「俺の負けだよ」  ゴゴゴゴッー  その時一際大きな落雷が轟いた。 「わっ」  薙くんが轟音に驚き、耳を塞いで台所の床にしゃがみ込んでしまった。同時に台所の電気、いや部屋中の電気が消えた。 「あっ」  ブルっと、突然寒気に襲われた。  俺は暗闇が怖い。真っ暗闇は嫌だ。ずっと沈めていた過去の記憶が込み上げて来そうになり、口に手を当てた。 「うっ」  込み上げて来る吐き気と戦っていると、隣に座っていた薙くんが背中を擦ってくれた。 「どうしたんだよ急に。雷は怖くないって。あれ……冷や汗かいてるね」 「ごっごめん。暗闇が……苦手で……」  息が詰まりそうで胸が苦しくて、自分で自分の心臓を叩いた。 「おいっ? ちょっと大丈夫なのか。参ったな。大人はいないし」 (丈……丈っ来てくれ)  心の中で、必死に丈を呼んだ。  こんな風になってしまうなんて、最近は滅多になかったのに。本当に久しぶりに出た症状だった。  何故……今頃。 ****  翠の白衣の腰紐を解き、左右に開いた。  じれったくて乱暴な手つきになってしまったかもしれない。  雨が止む前に、雷の音にかき消されるうちに……翠を抱きたい。  急いた気持ちのまま乱暴に翠の脚を持ち上げると、小さな悲鳴が上がった。 「痛っ」 「悪い」  はっと我に返る。 「いや……大丈夫だ。急く気持ちは同じだから」  今度は慎重に翠の脚を左右に開いて行く。  白い着物の裾を割り、翠のすらりと長い足に触れる。  太腿は滑らかで誘うような曲線だ。  どんどん淫らな姿にさせていく。  宮崎で初めて触れて抱いた躰……あれは夢ではないのだ。  北鎌倉に戻っても、今、俺の前でこのような姿を見せてくれることが嬉しくて、何度も足を撫でるように触れてしまう。すると小さい吐息を翠が呑み込むのが伝わってきた。  そのまま太腿の奥の際どい所まで撫でるように触れると、翠がとうとう堪え切れない吐息を零した。 「あっ……うっ」  確かめるように胸の尖りと翠のものを触れてみた。胸の尖りはツンと立ち上がり、そこを摘まめば下肢が震える。  俺の愛撫に確実に感じてくれている。それが分かるのが嬉しくて、翠に何度も口づけをする。  翠の潤んだ目が視界に入り、この表情が愛おしいと心から思う。  唾液の絡まる音が茶室に静かに広がりだせば、空間は俺達だけのものとなっていく。  ここにいるのは俺の翠だ。  宮崎で確かに抱いた翠がいる。  もう袈裟は脱いだのだから、住職としての顔も父親の顔も……全部捨ててしまえばいい!  もっともっと解放しろ!  俺だけの翠の姿を、さらけ出せよ。

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