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引き継ぐということ 30

 私が帰宅したタイミングで、停電は復旧した。どうやら落雷の影響で一時的なものだったようだ。  灯りがついたばかりの玄関で、ドンっと胸元に勢いよくぶつかってきたのは薙くんだ。見れば、はぁはぁと息を切らしているではないか。 「おいっどうした? そんなに息を切らして」 「あっ良かった! 洋さんが苦しそうでっ。丈さんっ医者なんだろ? 早くこっち!」  血相をかえた様子に私も気が急いた。案内された台所の床に、洋は蹲るように意識を失っていた。すぐに駆けつけ意識を確かめる。 「洋、洋しっかりしろ」  脈を確かめ熱を測る。身体に触れて怪我がないか確認した。どうやら一時的にパニックを起こしたようだ。  昔……そうだ。あれはテラスハウスで洋と暮らし始めたばかりの頃だ。車に初めて乗せて会社へ向かう途中、同じような症状で気を失ってしまった。何故今頃……いやこれは本人に意識とは別の潜在的なものだ。  とにかく布団へ。 「薙くん、隣の客間に布団敷いてもらえるか、押し入れにあるから」 「あっうん、分かった。洋さん……大丈夫なの? 」 「あぁ貧血のようなものだ」 「なんだ貧血かよ。脅かせやがって」  フンっと顔を背けてしまったが、口は悪いがまだ14歳だ。急に洋が倒れてさぞかし驚いたのだろう。強がっている様子に何故だか流兄さんを思い出してしまう。  和室の布団まで洋を横抱きにして、連れて行った。 「へぇ洋さんって……女子が騒ぐお姫様抱っこって奴が似合うね」  そんなことを薙くんが言って笑った。そうだ……こうやってあの日も洋を抱いて会社の医務室へ連れて行った。  今私の胸に顔を寄せて眠る洋の顔をじっと見つめた。22歳の頃と変わったか。洋はもう28歳になっていた。  だが……少しも変わっていないような気がする。  あの頃より色気は格段に増したが、長い睫毛も通った鼻筋も、滑らかな象牙色の肌も……美しく咲く花のような男のままだ。 「何じっと見てんの? 男同士なのに」 「あっいや、私は医者だから、気になってな」 「ふぅん……どうでもいいけど、オレさぁ腹減った。さっき洋さんと作ったおにぎり食べていい?」 「もちろんだ」 「サンキュ!」  薙くんが和室から出て行ったのを確認してから、そっと洋の額に手を当て、じっと顔を覗き込んだ。  最近の洋はすっかり元気になって、以前纏っていた暗さも払拭できたと思っていたのに……急に倒れたりすると、やはり私はいろんなことが心配になってしまう。洋の手前、そういう心配をしていることを顔に出さないようにしているのだが。  いつだって本当は不安だ。  幸せであればあるほど、この幸せがある日突然なくなってしまうのではと……洋が明るくなっていくのは良いことなのに、無理していないかと心配してしまうのは職業病か。  洋の薄く開いた唇に我慢できなくなり触れてしまった。柔らかい温かみを直に唇を通じて感じ、ようやく一息付けた。 ****  翠の屹立を指の輪で擦りながら、口の中に含んだ部分をきゅうっと勢いよく吸い込むと蜜が迸った。 「はぁっ……うっ」  翠は恥ずかしくて堪らないようで、顔を両手で覆っていた。    恥じらい。  そういうものも俺を煽るだけだということを、この人は知っているのだろうか。  ゴクンと嚥下すると、翠は信じられないといった目つきで、キッと睨むように見つめて来た。 「流、お願いだ。そんなこと……もう飲んだりしないでくれ」 「何故? 翠のなのに……俺の翠なんだろう。だからもらってもいいじゃないか」 「だが……そんなの美味しくない。汚いだろう」  なかば涙目になって訴える翠が可愛い。この人は……本当に何でこんなに可愛らしいのだ。  本当はもっと早くこんな関係になりたかった。ずっとこうなることを夢見て暮らしていた。  やっと手にいれた翠は、もう重ねた歳なんて関係ないほど淫らで可愛い男だった。だから待った時間なんて帳消しになるほど、俺は幸せで興奮している。 「そろそろ挿れていいか」 「……んっ」  小さく頷くのは肯定の合図。  俺は用意していた小さな瓶を手に取った。

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