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番外編 安志×涼 「乾いた心」3
課長の運転する車で、依頼先へ向かった。
「課長。どこへ向かっているのですか」
「おおモデル事務所だよ。お前をボディガードに指名してきたから」
「なんで俺を?」
「さぁ分からん」
そこまで聞いて、モデル事務所という言葉に心が躍った。もしかして俺を指名してくるモデルなんて……思い当たるのはただ一人。
俺の恋人の涼しかいない。
もちろん俺達が恋仲なのは、洋たち以外誰も知らないことだから、逸る気持ちを押し隠し、こっそり胸を高鳴らしていた。
道路の表示を見れば、車は順調に渋谷方面に向かっている。やはりそうなのか、涼の事務所は恵比寿にあるからいよいよ濃厚だ。
もしも涼のボディガードが出来たら、そんな嬉しいことはない。仕事中一緒にいられるのだから最高だ。
涼のことを護れるなんて、本望だ。
ところが車は恵比寿を通過してしまい、中目黒の瀟洒な白いオフィスビルの前で停車した。
「えっここですか」
「あぁモデルのサオリって知っているだろう? 」
「サオリ?」
「馬鹿、知らないのか」
いや……だってモデルっていったら涼のことしか興味ないし。
「だって俺、面識ないですよ。そのサオリさんって子」
「あーほんとお前って奴は呑気だな。サオリは有名なモデルだ。なんでお前のこと知ってんだよ。知っているのは元社員の山田だよ。お前もあいつの下にいたことあるだろ」
「あー課長代理だった山田さんですか! そういえば中途退職されましたよね」
「そっ!今はそのサオリって子のマネージャーなんだよ」
「はぁ……」
「だから山田さんの推薦でお前ってわけ。サオリが今度サイン会を渋谷の雑踏でするから必要なんだってさ」
「あーそういうことですか」
やっと合点した。
「まぁな、今回はボディガードまでイケメンがご希望だとよ」
「イケメンって、もしかして俺がですか」
「はははっそう思っておけ!」
うーむ、期待した分がっかりした。いや待てよ。そのサイン会っていつなんだ?
「サイン会の日取りはいつですか」
「今度の日曜日だ」
うっ、しかも最悪だ。
せっかく涼と約束していたのに。鎌倉で花見の予定も、月影寺の庭でのデートも何もかも飛んだってことか。
あー参ったな、涼に何て言おう。思わず頭を抱えてしまうと、課長に頭をペシッと叩かれた。
「ほらっ行くぞ! 何やってんだ」
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