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番外編 安志×涼 「君を守る」3

 僕が舞台に上がると暗転していた照明がつき、スポットライトを浴びた。  途端に大歓声が上がる。 「今日のスペシャルサプライズゲストは、なんとなんと! 広告の相手役の月乃 涼くんです」  司会の紹介の後、耳鳴りがするほどの黄色い歓声に驚いた。男性ばかりだと思っていた観客だったのに。 「涼くん~いらっしゃい」  サオリちゃんが舞台の上で、にっこり微笑んでいる。  微笑み返そうとした途端、さっき安志さんと抱き合っていた姿を思い出し、胸の奥がズキッと痛んでしまった。 (馬鹿、またっ! しっかりしろ)  何事もなかったように、僕もなんとか微笑み返すことが出来た。  それから舞台で二人で挨拶して、広告撮影時の秘話などのインタビューをいくつか受けた。その後サオリちゃんと向かい合って手を繋ぎ微笑み合うシーンを観客の前で再現することになった。このカットが好評で人気が出たようなものだから、未だに多くの人から望まれるのは光栄なことだ。 「では、いよいよあの有名なシーンをここで再現します!」  その時痛い位の視線を感じた。視線を辿ると、舞台袖に立っている安志さんと目があった。  安志さんは、このコーナーの前の握手会ではサオリちゃんのすぐ横に立っていた。まるで寄り添うように守るような姿は、カレシとカノジョみたいで、眩しかった。  流石に今は広告シーンの再現になるので、舞台袖まで引いている。  僕が来ると知らなかったようで、驚いて目を見開いているのが分かる。  口唇が動き、「リョウ」と呼ばれた気がした。なのに……僕は、笑顔で返そう思ったのに上手く笑えなかった。  僕の硬い反応に訝し気な表情を浮かべているのが分かり、申し訳ないような気がした。それでもそれは一瞬で、すぐに安志さんは見たこともないような表情に戻って行った。  仕事の顔だ。初めて面と向かって……業務に就く安志さんを見た。  これが僕の好きな安志さんのボディガード姿だ。  黒いスーツを颯爽と着こなし、全体に緊張感を纏い、片耳にはイヤホンで何か指示を出している姿。  凛々しくてスマートで素敵だった。  思わず見惚れてしまっていると、サオリちゃんに促された。 「涼くんどうしたの? さぁ始まるわよ。よろしくね」 「ごめんっ。よろしくな」  舞台に再び淡いピンク色のスポットライトがあたり、僕たちが共に照らされる。  雪がちらつく映像と共に、僕たちは向かい合い微笑み合う。それから互いの手を取り握り締めて微笑み合う。  腕時計が軽くぶつかる音がする。  そこで、ナレーションが入る。 「腕時計の贈りもの、それは互いの存在を感じる場所の提供です」 「スマートフォンではなく、時を刻む時計を敢えて身につけて街へ飛び出しましょう! 二人で刻む時というものを肌で感じてみませんか」  会場からは一斉に拍手と歓声が沸いた。  反応が良かったので、ほっとした。  ナレーションの後は、指示ではサプライズで抱擁しあうとのこと。  少しの躊躇いのあと、サオリちゃんの身体をふわりと軽く抱きしめると、安志さんの香りが微かにしたのが、切なかった。  っとその時突然、罵声と怒声をあげながらドカドカと近づいてくる男性を確認した。 「くそおおおお! お前ー俺のサオリに触れんなぁ!」  スピットライトに光るのは鋭利なナイフ!  会場は悲鳴に包まれる。  観客が一斉に悲鳴を上げ逃げ出し、パニックになっていく。 「危ないっ!サオリちゃん、早く逃げて」 「でもっ」 「ほらっ行って!」  僕が狙いだと思った。  とにかく彼女をドンっと投げるように舞台袖へと突き飛ばし、振り返った瞬間、僕の前に立ちはだかる男とナイフを確認した。 「くそぉお! お前なんかっお前なんか消えろっ!」  サオリちゃんを逃がそうと背を向けた一瞬の隙だった。  真正面からまともにそれを受ける形になってしまった。  あのナイフで斬られてしまう!  足が竦んで動けない!    目を瞑って衝撃に耐えるしか、もう道はなかった。  ( 安志さんっ!)  心の中で、いや口に出してしまったかもしれない。  ‪僕は必死に彼を呼んだ!‬ ‪ 安志さんが今、何処にいるか分からないけれども、暗闇に手を必死に伸ばし‬た。 届け!

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