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番外編 安志×涼 「君を守る」4

 控室で突然サオリさんに抱きつかれた時は焦ったが、恐怖に怯えての行動だった。俺は妹をなだめるように、彼女に優しく言い含めた。  会場内の警備の徹底さを具体的にあげ、怯える気持ちを落ち着かせ、最後には何かあったら必ず守ると約束した。 「安志さんが付いてくれているのなら、サオリがんばれそう」 「ありがとうございます。精一杯務めます」 「はぁ、やっぱりボディガードさんってカッコいい!映画で観てからずっと憧れていたの~サオリ専属のボディガードが欲しいって」  おいおい専属はないだろう。  女の子のボディガードなんて慣れなくて居心地が悪いから、今回限りで充分だよ。サオリさんの語尾にハートマークがついていそうな甘ったるい会話に、相槌を打つのが精一杯だった。  微笑む彼女を見て、女の子って甘い砂糖菓子みたいだなと思う。同時に清涼飲料水のように爽やかな涼のことを、思い出した。  俺には甘い水よりも、涼がいい。  ぶれない揺らがない気持ちを確信する瞬間だ。  後半の警備は更に念を入れて、握手会のブースに警備員を増員してもらい、事前の手荷物チェックも完璧にした。  そのお陰で、後半の握手会は滞りなく無事に終わった。  少しの休憩を挟んで、次は会場内の舞台でサプライズ企画が始まる。  この時まで、俺は誰がサプライズで登場するのか聞かされていなかった。だから舞台の袖から入って来た華奢な男性を見て、思わず固まってしまった。  涼も出演した時計のイベントなんだから、よく考えれば当然のことなのに、俺の頭はそこまで回っていなかった。  思いがけず俺の恋人に会えた嬉しさが、こみ上げて来た。 (りょ…う…)  声には出さなかったが、つい、そう呼んでしまった。  ところが予想に反して涼の表情が硬い。  優しく微笑んでくれるだろうという期待は無残にも散ってしまった。  しっかりしろ! 涼は今仕事中だ。  そして俺も仕事中だ。  サプライズイベントはトークショーだった。  握手会のように真横にいるわけにはいかないので、俺はそのまま舞台裏に控えた。そして常に怪しい者が潜んでいないか目を光らせ警戒していた。  それにしても舞台上でサオリさんとトークに応える涼は、俺の知っている涼ではなかった。  明朗快活な爽やかな雰囲気。甘く整った美しい顔、バランスのとれた体つき。なよなよしたところの一切ない好青年だ。  サオリさんのファンの男性陣からも、好感を持って迎えられている。  っていうか、俺の涼なんだ。変な眼で見るなと心配する程だ。  涼のトークは機転が利いて良かった。  俺に抱かれる時の無防備な姿からは想像できない姿だ。  本当にまだ十代なのに、立派にモデルとして仕事をやっているんだな。  涼……すごくいい。かっこいいよ。  恋人自慢のような気持で二人のトークを見守ってしまった。  ところが涼が広告のシーンを再現し、ふわりとサオリさんを抱きしめようとした瞬間、事態は暗転した。 「くそおおおお!お前、俺のサオリに触れんなぁ!」  突然会場に鳴り響く罵声と怒声。  ドカドカと近づいてくる男性を確認した。  まずい!    俺も咄嗟に舞台裏から飛び出した。  男は刃物を持っている。危険だ!  舞台中央で身を寄せ合う涼とサオリさんの護衛に入ろうと思った瞬間だった。 「サオリちゃん、早く逃げて」  ドンっと涼に勢いよく押されたサオリさんを受け止めることになった。  あっ馬鹿っ!  涼っ……それじゃお前が危険に晒される! 「安志さん、怖かったぁ」  震えてサオリさんにろくに返事もしないで、駆けつけた警備員に託し、俺は走りだす。  涼、君を守る! ****  暗い照明、滑りやすい靴。  アメリカでもナイフを持った奴に襲われたこともある。こんな危険……場数を踏んでいるのは僕の方だ。  だけど……  いつもなら逃げられるのに、僕はとても無防備な姿を晒していた。  もう駄目だ! 斬られてしまう! 「あっ!」  そう思った瞬間、僕は誰かに庇われるような形ですっぽりと抱きしめられていた。  広くて厚い胸に、顔や頭を守るために腕で押しこまれるような形になっていたので、顔が見えなかったが、すぐに分かった。  この香り、この温もり。  この男性は、安志さんだ!  思わず、ぎゅっとその逞しい腕にしがみ付いてしまった。 「涼、大丈夫か。こっちへ」 「待てぇぇ!」  安志さんは僕を背中にすっぽりと隠し、襲い掛かる相手に向かい合った。 「くそぉぉぉ!」  刃物を持っている手が大きく影を作りながら動いた。  相手は気が狂ったように暴れている。  会場内に悲鳴が鳴り響く!

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