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番外編 安志×涼 「君を守る」5

 暴漢は両手にナイフを持っていた。  信じられない!  危険物を簡単に厳戒態勢だった会場に持ち込めるなんて、警備はどうなってんだよ!  ボディガードとしての技術研修は充分受けた。アメリカにも研修に行ったほどだ。咄嗟に依頼主を守る術も身につけているはずだった。だがこの日本で、こんなにも殺意の籠ったナイフを振りかざされるのは初めてだ。  俺の方も緊張し、上手く体が動かず焦っていた。  ナイフの刃を避けながら、思うことは二つ!  とにかく涼を守る!  そして安全なところへ逃がす!  それだけだ!  警備員はまったく役に立たない。ただ茫然と傍で見ているだけじゃないか。  男のくせに、その職業に恥じはないのか!  相手の腕を取ろうにもなかなかの腕力で、しかも両手にナイフを持っているため、我ながら苦戦していた。  それに涼を庇いながらでは動きが悪いのも理解していた。  背中に守る涼が、状況を理解して加勢しようとしてきた。  駄目だ!  この男は狂喜に満ちている! 涼が敵う相手じゃない! 「安志さんっ危ない!」 「涼、舞台裏へ行け!頼む!」 「やだっ!僕だって」 「いいから早く」  前に出てこようとする涼の腕を掴んで、思いっきり後ろへ投げた。 「涼、行けっ!」  唖然とした表情の涼が、マネージャーと警備員に抱きかかえられるように受け止められたのを確認してから、俺は一気に相手に覆い被さった。  これで身軽だ。多少の怪我は厭わない。  ゴンっ!!!  おもいっきり暴漢の足を払いバランスを崩させ、舞台の固い床に押し倒す。  すると相手は死に物狂いで、ナイフを振りかざして来た。もう必死の形相だ。 「くそおおお!死ねっ!」  ナイフが俺の心臓めがけて真っすぐに飛んで来た。  まずいっ!  咄嗟に右手で心臓の上をガードしたが…  ドスンっ  ナイフの刺さる衝撃を胸に受けた。  うっ……しまった!  ところが心臓はバクバクと正常に鼓動し、血は流れていない。どこも痛くはない。  何故だ?  身体を動かした途端、音を立てて床に崩れ落ちたのは、腕時計のガラスの破片だった。  そうか! この腕時計が俺を守ってくれたのか。  だが、せっかく涼がくれた腕時計が壊れてしまったじゃないか。  その事実に俺の中の何かが壊れ、力が漲った。  俺は暴漢を思いっきり殴り飛ばし、腕から刃物を奪い取り、腰に跨って動きを制した。 「うぐっ」  その時になってようやく警察が到着したようだ。  遅いっ!  気が付くと、結構いろんな所が切れていたようで、白いワイシャツが血にまみれていた。 「安志さんっ!」  舞台袖から涼の声がはっきり聞こえ、安堵した。  涼が無事でよかった。  そして俺も無事でよかった。  万が一俺に何かあったら、涼が悲しむ。  だから、どちらも大事な命だ。

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