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振り向けばそこに… 6
洋くんがリビングに行ってしまったので、俺は兄さんと二人きりになった。
「翠、さっきの話を実行してもいいのか」
「馬鹿、こんなところで言うな。ちゃんと兄さんと呼べと……」
「善は急げだ。せっかくならこのリフォームをやってくれた野口さんのところに頼みたい」
「……確かにこのリフォームはとても素敵だ。住む人間の気持ちに寄り添っていて、呼吸が楽だな。僕もこんな風に自分だけの家に住んでみたかった」
「叶えてやる。翠の夢は全部俺が……」
美しく透明感の漂う翠の横顔が、寝室の大きな窓から射し込む木漏れ日のような日差しに照らされる。
俺はあの宮崎で、とうとうずっと小さい時からの憧れを手に入れたのだ。だから翠が喜ぶことなら、なんでもしてやりたい。
こんな風に次々と沸く気持ちは、遠い昔にまるで何もかも叶わなかったからのような、切ない気持ちが押し上げて来るものだ。
「……分かった。あの茶室はもともと翠のために建てたのだから、あの空間を広げるよ。いいだろう。翠の家も建てよう。俺と翠の家だ」
「流……」
翠の頬が、ふわっと染まっていく。淡い桜色に控えめに染まる兄の奥ゆかしい表情が好きだ。俺の提案を嬉しく思ってくれているのが伝わる空気に心が震える。
遠い昔叶わなかったことは、全部俺が引き受けてやる。翠を幸せにするためになら、なんだってしてやる。
だから安心しろ。任せろ。
これは無念に去ることになった過去へのメッセージだ。
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リビングに通されると大きなソファが置いてあった。三人掛けにカウチソファがついて、ゆったりとした奥行きのまるでベッドのような雰囲気。
ベッド……わ、俺……また。
なんで丈がこんなにも大きなソファを注文したのか、その意図を察して赤面してしまう。
「このソファ素敵ですよね。丈先生のたっての希望でイタリアから直輸入したのですよ。色も拘ってマリンブルーだそうです。これだけの広さがあれば大人ふたりでも余裕で横にもなれるし、ホームパーティーの時にも活躍すると思いますよ」
マリンブルーか。少し緑がかった青はベッドのシーツとはまた違った色で落ち着く。
丈がどんな気持ちでこれを用意してくれたのか。
丈が俺のことをいつも考え愛してくれているのか伝わってきて、今すぐ丈の元へ駆けつけて、抱きついて礼を言いたい気持ちが溢れてしまうよ。
「タペストリーは月光にしました。これも丈先生自ら、京都のお店で選ばれたものです」
はっと見上げればソファの上に、満月とすすきを描いた染め物のタペストリーがかかっていた。
これは……闇夜を怖がる俺への贈り物だ。
月が照らす夜なら怖くはないと。
補足
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流と翠の前世の話は『夕凪の空 京の香り』の「残された日々」で連載中です。切ない話ですが、未来へと繋がっていくと思って読んでいただけたら嬉しいです。
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