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解けていく 24

「翠……もう一杯どうだ?」 「いや、もうやめておくよ」    翠は頬を少し赤く染め、眠たそうな様子だ。それもそうだろう。体調が万全ではないのに俺に付き合って飲んでくれたのだから。  昨夜は野宿のようなものだったろうし、今朝は熱を出していた。  もうそろそろ……帰してやるか。  本当は『翠』という酒をこの店で飲むたびに、お前のこと思い出していた。なんて俺が今更告げても、負担になるだけだろうな。  グイっとお猪口に入った酒を、浴びるように飲み干した。  俺の様子を、翠はじっと見つめていた。 「道昭……ありがとう。お前はずっと僕のこと心配してくれていたのだろう?」 「えっ」  まるで俺の心の声が聞こえたかのような反応に、少なからず動揺してしまう。 「今日、ここに連れて来てくれてありがとう。久しぶりだったよ。こんな風に友人と一緒にゆっくり酒を飲み交わすなんて……本当に楽しかったよ」 「あっああ、そろそろ帰るか」 「そうだね」  友人として出来る限りのことはした。それだけさ……  席を立った時、ふと……隣の席の青年と目があった。  綺麗な顔立ちの青年と少し年上の男性が飲んでいるのも『翠』という酒だった。  その青年は、どうやら翠のことを見つめていたようだ。  翠は自分では意識していないようだが、人目をひく品の良さとたおやかな雰囲気を持った男だった。  大学時代も……今も。  いつもそんな翠の横を歩くのが心地良かった。  憧れにも似た視線を送られて得意気だったのは、俺の方か。  ふと、今宵は久しぶりにそんなことを思い出した。 **** 「じゃあ、翠、おやすみ」 「ありがとう、また明日な」  道昭と別れ自分の部屋に戻ると、もう流が戻っていた。  もう一度風呂に入ったらしく、濡れた髪のまま肩にタオルをかけて、浴衣姿で窓際の椅子に座っていた。  凛々しい男らしいシルエットだと思わず目を細めてしまう。  ここにいる男は、僕の自慢の弟でもあり、僕の想い人だ。 「流、ただいま」 「遅かったな」 「これ、土産だ」 「何?」 「道昭に連れて行ってもらった店で、こんなお酒を扱っていたんだ」 「どれ?」  手提げ袋から出して、酒のラベルを流が見た。 「『翠』か!」 「あぁ今から飲むか」 「いや翠はもう酔っぱらいだろ。目元が潤んでいるぞ」 「まだ飲めるよ。お前は何も飲んでいないのだろう? 悪かったな、僕だけ」 「いいんだ。それよりもう熱はないか」 「大丈夫」 「ならいいな」 「何が?」 「酒よりもさ、翠を飲みたい、そう飲みたいな、あれをくれよ」 「あれって?」  言い返して、まさかっと顔が火を噴いたように赤くなった。 「ばっバカ! お前はもう……いつもそんなことばかり言って」 「明日には北鎌倉に戻るだろう。また不自由な時間に戻ってしまう。気兼ねなく抱けるのは今宵だけだ」 「今宵って……昨日だって散々僕を」 「もう翠は何もしなくていいから、布団に寝ていればいいから」  小さな子供のように駄々をこねる。  そんな流の我儘が少しも嫌じゃない。  僕だって……流に触れて欲しくなる。  確かに明日の夜には北鎌倉に戻る。  それは住職に、父親に戻る時間が迫っている事を意味するのだから。  ならば……今宵のこの時間だけは流だけのものに。  あの離れていた五年間のことを思えば、流に求められる幸せを噛みしめてしまうよ。  あの五年間、僕の前から流が消えてしまった悲しい日々を思えば、今がどんなに幸せだか分かるから。 「流……いいよ。好きにしていい」 「ありがとう」  流の手がためらいなく僕の襟元に伸びてくる。  ボタンを慣れた手つきで外され、素肌を露わにされる。  そのままぐいっと腰を抱かれ、座っている流を跨ぐような姿勢を取らされる。顎を掬われ上を向かされてから、味わうように口づけをされる。 「翠の味は、これか」  口腔内に流の舌が入り込み、僕を唾液を味わっていく。 「んっ……ん、ごめん……酒臭いかも」 「いや……こういう味のキスもいいな。酔いそうだ。もっと欲しいな。もっと……」

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