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番外編 安志&涼 『SUMMER VACATION』3
ネイビーに太いホワイトのラインが入ったデザインの膝上丈サーフパンツに、白いフード付きのラッシュガードを合わせた。
本当はこんな物は着ないで伸び伸びと泳ぎたいけど、モデルの仕事はすでに秋冬物の撮影に入っているから、日焼けは厳禁だった。
「遅いな。安志さんどこに行ったのかな」
安志さんがなかなか帰ってこないので手持ち無沙汰だ。先に行ってもいいかな。せっかく月影寺に来たんだし、洋兄さんとも早く話がしたくてウズウズしてくるよ。
ところが中庭を覗くと、誰もいない。
洋兄さんも自分の家かな。
去年の秋にリフォームが完成したという離れは、寺の中にあるとは思えないほどモダンな外観だった。
春にもお邪魔させてもらったけど、内装も本当にシックで……丈さんと洋兄さんにふさわしい厳かさを感じる空間だった。
インターホンを押すと、すぐに洋兄さんの声がした。
「はい?」
「洋兄さん。僕」
「涼? どうした」
すぐに中から、洋兄さんが現れた。シャツのボタンを外していたので、着替え中だったみたいだ。
無防備過ぎないか。いつだって……こちらが心配になるほど、洋兄さんの色気は男なのに壮絶だ。
「あのね、安志さん知らない?」
「あぁ安志なら、流さんのところだよ」
「なんで?」
「水着を借りに行ってるはずだよ」
「あれ? そうだったの。おかしいな」
「ん? あっごめん。口が滑って……安志、水着忘れたこと内緒にして欲しかったのだろうに。あー俺は本当に気が回らないよな」
洋兄さんが照れくさそうに笑っている。
最近ますます喜怒哀楽がしっかりしてきて、生き生きしているな。
そう思えることが嬉しかった。
あのニューヨークの船上、まるでこの世から消えることを願うように、気怠げに壁にもたれていた姿を思い出すと……切なくも、懐かしくなる。
「ところで洋兄さんはさ、いつもどんなパンツ履いているの?」
「え? なんで急にパンツの話?」
自分でも唐突すぎると思ったけど、さっきあのエロい下着を安志さんが嬉しそうに僕に履いて欲しいというもんだから、世の中の他の恋人はやっぱりそういうこと喜ぶのかなと興味があったんだ。
「普通の……ごくごく普通のだよ」
なぜか洋兄さんは真っ赤になって答える。
その慌てぶりを怪訝に思った。
「本当に普通? 普通ってどんなの見せて」
「は? ダメダメ! 見せるようなもんじゃないし、普通の下着だよ、うん」
ますます怪しいな。
もうっ洋兄さんはダメだな。そんなんだから弄りたくなる。
十歳も年下の僕から見てもそう思うんだから、丈さんは堪らないだろう。
そうだ、違う方向から聞いてみよう。
「実はね、相談があって」
「どうした? 安志のこと?」
「えっとね、エロい紐みたいなパンツ、丈さんは買ってきたことある?」
「えっ……え」
洋兄さんは一気に耳まで赤く染めた。
やれやれバレバレだな。これは相当エロいパンツ履かされているんじゃないか。
「お願い。教えて欲しいんだ。僕ちょっと悩み事があって」
「……そっか、うーん、水着で丈が買ってきたことはあるけどな」
「それ履いたの?」
「うーん実は去年の宮崎旅行で、丈がそれを俺に履けって言うので揉めてさ、でも結局、翠さんの計らいで、丈が履くことになって」
「へぇ何それ面白い展開だね。安志さんにも履いてもらおうかな。その水着貸して欲しいな」
「あ……もう、ないんだ」
「どういうこと?」
「海に流れてどっかに行ってしまってさ……ああああ、もういいだろう。涼、変なこと思い出させるな」
聞けば聞くほど興味深い。
水着が流れたってことは、丈さんは宮崎の海でヌードに?
あああ、でも丈さんならヌードモデルになれるかも。
男神のような雄々しい身体が、宮崎の灼熱の太陽に焼けて……
いつの間にか僕の妄想は流さんではなく安志さんの姿になっていた。
ごっくん。
生唾を呑んでしまったかも。
「こらっ涼、変なこと想像すんなよっ」
モクモク、ワクワクと考えていたら、洋兄さんに怒られた。
「さぁ俺も着替えたから、先に泳ぎにいこう。小さいプールだけど深さはあるし、楽しそうだよ」
気がつけば洋兄さんも既に水着姿になっていた。今年流行の長すぎず、短すぎないサーフパンツで、綺麗な膝小僧が見えている。白地に黒いヤシの木の柄が爽やかだな。
「いい水着だね。丈さんが買ってきたの? 去年の紐パンと全然違うね」
「ふふっそうだな。今年は……露出度が低いのを着ろだって」
そう言って洋兄さんは笑うけど、上半身裸だから綺麗な胸の粒が丸見えなんだけど……とは言えなかった。
ここは身内だけだし、いいよな。
****
「流、安志くんにお前の水着を貸してやってくれ」
「えーしょうがないなぁ。翠兄さんの頼みなら仕方がない」
「ふっ安志くんさ、いい年して忘れものか」
わざと揶揄すると、真面目な顔で深く頭を下げてきたので焦ってしまった。
「すみません。迷惑かけて」
礼儀正しい野球少年を思い出す光景だ。
「潔いな。気に入ったぞ。じゃあとっておきの貸してやる」
「とっておき? 流、そんなにいい水着持っていたか」
「やだな翠兄さん、俺たちにとって、とっておきといえば、分かるでしょう」
「あぁもしかして……あれか」
「あれです」
安志くんはますます怪訝な表情になっていく。
「あの……とっておきって? そんなに大切な物を俺が借りてもいいんですか」
「もちろんだよ、ちょっと待ってろ」
流さんは部屋の奥に消えていくと、隣で翠さんが楽しそうにワクワクした顔をしていた。
「あの……?」
「ん? あぁ心配しなくてもいいよ。僕たちのおすすめなんだ。君にきっと似合うよ。僕、ちょうど練習したかったんだ」
なんだか、ものすごーく嫌な予感がしてきた。
そして再び現れた流さんの手に握られた細くて長い布……
ああああ、これってさ!まさかあれか!
おいっ!! なんでこんなもんが普通に出てくるんだよ!
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