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番外編 安志&涼 『SUMMER VACATION』4

 白くて長い布。    うぉぉ、これってあれだよな。あれ…… 「うん褌《ふんどし》。去年の宮崎旅行でハマってしまってね。どうだろう?君に似合いそうだが……」  翠さんが仏のような穏やかな笑みで勧めてくる。  本当にこの人は浮世離れしている。  いやいや、そうじゃない。  流石に俺は恋人と来ているのに、褌はないだろう?  あーなんで新調したばかりの水着を干したまま忘れるんだよ。洗うんじゃなかった! 「あぁ心配しないで。締め方が分からないから不安なんだね。大丈夫だよ。僕が手伝ってあげるから……さぁ脱いでごらん」 「いや……その……あーーーやっぱりいいです!」  俺は逃げるように、その場から去っていた。  全く俺は……何を恥ずかしがっている。  忘れたなら、素直に認めろ。  男なら潔く行け! **** 「あっ安志くん待って!」  呼び止めたのに、彼は顔を真っ赤にして逃げるように去ってしまった。  ポカンと小さくなっていく後ろ姿を眺めていると、流に思いっきり笑われた。 「はははっ! 彼はなかなか精神を鍛えているようだな。実に逞しいな。翠に靡かなかったのはすごいことだ!俺も見習いたい」 「流、どういう意味だよ? それ」 「あいつはきっと。くくく、洋くんが目をまるくするかな。それとも涼くんが卒倒するかもな」 「……?」 「さてと、じゃあこの褌は翠がつけるといい」 「僕が……なんで?」  流はしたり顔で話を続けた。 「この白い褌はもともと翠のものだったろう。あの宮崎でもらったものだし」 「それはそうだが……でも」 「翠は人に勧めるだけで、まだ自分で締めれないのか」  そう言われると、僕の長男の血が騒いでしまうのに。 「……そんなことないよ。僕だってあれから練習してちゃんと出来るようになったんだ」 「へぇ、じゃあひとりでつけて見ろよ」 「いいよ! 貸して」  ついムキになって、流の手から褌を奪いとってしまった。 「ここで見ているよ」 「……恥ずかしい」 「大丈夫だ。ここには俺しかいない」 「う……ん」 「じゃあ脱衣場で」  流に腕をひっぱられ、脱衣場に入った。脱衣場といっても風呂場と繋がっているし、ガラス張りで丸見えなんだけどな。  僕は着ていた和装を脱ぎ捨てて、下着姿になった。  少し迷いながらそっと下着を脱いでいくと、流の視線も一緒に下半身を舐めるように移動したのを感じで、ゾクゾクしてしまった。  僕、何を期待して……? 「……お前は、いやらしい目をしているな」 「今から視姦する」 「おっ、おい!」 **** 「洋兄さん、プール気持ちいいね! 思ったより深いし」 「うん、そうだな」  プールの水はひんやりと冷たくて気持ちがいいし、まだ洋兄さんと二人きりなので広々と使える。  洋兄さんも気持ち良さそうに泳いでいた。  まぁ泳ぐといっても5m程度の距離だけど、簡易プールでこの規模は申し分ない。久しぶりに人の目を気にせず、のびのびと過ごせて僕の心も解放感で一杯だ。 「それにしても、安志さん遅いね」 「うーん……流さんと翠さんも一癖も二癖もあるから、どう料理されているか」  洋兄さんは楽しそうに笑っていた。 「え? どういう意味」 「ちなみに宮崎では褌姿だったよ」 「えー褌?」 「ははっもしかしたら安志も餌食になったかも。あーそれ見たいな!」    今度は洋兄さんが声をあげて笑った。  よほど楽しい思い出だったみたいだ。 「ええっ」 「ふふっ、でも安志なら似合うかもよ。あいつ和風モードだし」 「いやいや、そんな、だって褌なんて困るよ。ほら前も後ろも際どいから、あー心配だ。そんな姿を洋兄さんに見せることになったらどうしよう」 「ん? 大丈夫だよ。俺はあいつの裸なんて見慣れているよ」 「えっ!!」  その発言には、流石に動揺してしまった。 「あ……いや、小さい頃一緒に安志の家に泊まった時にさ、お風呂に入ったとかそういうレベルのこと」 「あぁ……なんだ、そういうことか」 「うん、だってアイツは涼のものだろう。その上手くいっているのか」  洋兄さんがすっと真顔になったので、正直に答えた。 「僕たち、あの春の事件からまた一層絆が深まったと思うよ」 「そうだな。見ていると分かるよ。幸せそうな雰囲気が滲み出ているもんな」 「ありがとう。でももうダメだよ。安志さんの裸はもう見たらダメだ」 「へぇ涼って……案外独占欲強いのな」 「当たり前だ。安志さんの身体、すごくかっこいいんだ。鍛えられていて」  そこで洋兄さんは顔を上げ、遠くを見つめた。  その顔色が、みるみる…… 「はいはいお惚気だな。あっ噂をすれば安志がこっちに来るよ……あれ?あ──っ!!」  洋兄さんの驚愕の声につられて僕も振り返ってみた。  ……固まってしまった!  ちょっと?  な……んで?  真っ裸なんだよぉぉぉ!!!!!

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