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夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』8
「ふぅ、やっと邪魔者は帰ったな」
「流、そんな風にいうもんじゃないよ。大事な弟だろう」
翠が窘めるように、俺の肩に手を置いてくれた。
「まぁな。なぁそれにしても最近、丈の奴、面白くなったと思わないか。あいつがまさか裸になるとはな。くくくっ思い出してもウケるな」
「ふふっそうだね。僕もまさか丈があんな行動をとるなんて思わなかった」
俺が笑えば翠も目を細めて、優しく甘く微笑んでくれる。
翠はもう兄の顔ではなく、俺の恋人の顔に戻っていた。
こんな和やかなひと時は、少し前には絶対に望めないものだった。
ようやくだ。
ようやく俺たちここまで辿り着いた。
ここまで来るのに、どれだけお互い密かに泣いたことか。
「そろそろ寝ないと……」
翠が伏し目がちに誘う。
分かっている、続きをご所望だろう。
「行こう。もう一度あの部屋へ」
「いいか流、今日は一度だけだぞ。その……僕もさっきのままじゃ辛いから……許すんだ」
言い訳がましく言う様子も、はっきり言って可愛いだけだ。
「ふっ、俺が欲しい時は、翠も欲しい時だろう」
「それ……言うな」
困惑した表情にも、ぐっとくる。
この端正な顔を、早く染め上げて乱れさせたい。
和室に入ると、さっき俺たちが乱した布団がそのまま敷かれていた。
翠が乱れて作ったシーツの波が生々しい。
「あっ……」
「どうした?」
「この布団……もしかして洋くんが見たんじゃ」
「あー気にすんなよ。お互い様だ」
「うっ……恥ずかしいよ」
翠が真っ赤になっている。
洋くんの前では、せめて凛とした兄でいたいのだろう。
「気にするな。どうせあいつらだって、今頃さ」
「流……僕は……でも」
恥じらいを捨てきれない様子で翠が後ずさるので、腕を腰に回して引き留めた。そしてそのまま、再び布団へと押し倒す。
「あっ、流っ……」
「時間ないんだろう? 一度しか駄目なんだろう?」
「……う、ん」
忙しなく翠に口づけを繰り返すと、翠の薄い胸は酸素を求めて上下する。
その様子に、なぜか感極まる。
生きている。
お互い生きて愛し合える。
そのことへの喜びが募る。
翠の浴衣を、大きく崩していく。
手でガバッっと胸元を左右に開き、心臓の下の傷跡に口づける。
翠はこれがお好みではないらしく、決まって抗うのだ。
首を横に振り嫌そうな顔をする。
だがそんな表情も俺を煽ってしまうことを知っているのか。
「流……そこに触れるな。そこは……いやだ」
ここのせいで、兄さんはこの寺を捨てた。
憎い。
でもこの傷のおかげで……
翠は巡り巡って、俺のものになった。
そう思ったら、やっぱり愛おしい。
恭しく口づけを施し、さらにその上の小さな突起を丸ごとしゃぶる。
「んんっ!!」
過敏に反応した腰が跳ねる。
浮いた腰に手を差し込み、ぐっと俺の胸に密着させる。
「あぁ」
翠の手が、畳の上で藻掻く。
ふと、その先に一本の紐が見えた。
まだ翠の浴衣の帯は解いていないのに、何だろう?
手に取って確認すると、洋くんに着付けした時に出した腰紐だった。仕舞い忘れたのか。
普段なら絶対に思いつかないのに、夏の宵のせいか翠に対して妖しい欲望が欲情が生まれてしまった。
やばいな。
「流……どうした?」
手を停めたのを不思議に思ったのだろう、翠がギュッと瞑っていた目を大きく開いた。
無防備な顔だ。
俺にだけ見せる、無垢な姿にソソラレル。
もっと俺だけのものにしたいという独占欲が湧いて……しょうがない。
「翠、一度やってみたいことがある」
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