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出逢ってはいけない 1

「薙、よかったのか。家族水入らずの休日って奴だったんじゃ」  横須賀線に揺られながら、拓人は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。 「いいんだよ。なんか今日は気分が良くてさ……出かけたい気分だった」 「ふぅん……いい事でもあった? 」 「いい事ってわけじゃないけど、母さんが母さんらしくなって、父さんが父さんらしかったってところかな」  初めて自分から両親について話した。  夏に鎌倉に引っ越してきてから、両親のことに触れられるのがイヤで避けてきた。気を許した拓人にさえ言えなかったのに、どうしてだろう? 「へぇ、さっき車から降りてきたのは薙のお父さんだろう」 「あぁ」 「ずいぶん若くて……男の人なのに綺麗な人なんだな。正直、驚いた」 「そうか。もう見慣れたけど……」 「薙は父親似なんだな」 「お前もそう思う? 皆に言われるよ。驚かれる程、若い頃の父さんにそっくりだってさ」 「へぇ、俺は母親似かな。どっちかっていうと」 「え? だってお前は全然女顔じゃないぞ」 「ははっ当たり前だよ。男だからな」 「……いいよな。オレは父親似なのに、何故か女顔って言われることが多くてうんざりだよ」 「くくっ特殊だな……それ」  顔を見合わせて軽く笑い合った。  同い年なのにどこか卓越したような風貌の男らしい拓人の顔に、ハッとした。それに学校以外の場所で拓人と会うのは初めてで、ちょっと照れ臭い。 「ところで、東京に何しに行くんだ? 」 「あ……悪い、ちゃんと話してなかったな」 「渋谷まで、どうやって行けばいい? 」 「渋谷、前住んでいたところの近くだ」 「へぇーすごいな! 薙は垢抜けていると思ったけど、本当に都会育ちなんだな」 「まぁね、なら横浜で東横線に乗り換えるぞ」 「おう。よろしくな」  オレはコイツのこと、本当に何も知らないんだな。  でもそんなこと必要なかった。同じ日の転校生同士だったし、流されない自分を持っているスタイルが好きで、すっかり意気投合し、信頼していた。  渋谷駅に着くと、拓人はマンションの住所を書いた紙を提示した。 「ここに行きたいんだ、道分かるか」 「えっと……あぁここなら前住んでいた所から結構近いな。ちょっと歩くけどいいか」 「もちろん」 「ここに会いたい人でもいるのか」  何気ない一言に、拓人は見たこともないような暗い顔をし、そのまま無言になってしまった。あまり無理に聞かない方がいいのかと、深追いはしなかった。  渋谷から徒歩で二十分程で、目的地に迷いなく到着した。 「流石だなぁ薙、地元感漂っていたぞ」 「まぁね、結構この辺はウロウロしたからな」  マンションの表札は、拓人の苗字と同じ『岩本』となっていた。もしかして親戚の家なのか。拓人は一呼吸してからインターホンを押すと、相手は年配の女性だった。 「どなた?」 「ばーちゃん、俺、拓人」 「まぁ、たっくんなの。よくひとりで来られたわね」  すぐにドアが開いて、白髪混じりの女性が笑顔で出てきた。 「薙、俺のばーちゃん、ばーちゃん、向こうの中学で出来た友達だよ」 「まぁお友達と一緒なのね。嬉しいわ。さぁあがって頂戴」  嬉しそうに招き入れられたので、躊躇しながらもお邪魔することになった。    さっきの拓人の暗い表情が気になったが…… **** 「脱いじゃうのか。勿体ない」 「洋、何言ってる。重たくて大変なんだぞ」 「そんなに? 翠さんはいつも涼しい顔をして着ているのに」 「兄さんとは心の鍛え方が違うんだよ」  離れで丈の着替えを手伝った。  袈裟から脱皮するように、丈のよく鍛えられた身体が徐々に見えてくると、少なからず興奮してしまった。 「洋、そんなに見つめて……私に見惚れているのか」 「え? そんなことないっ」 「嘘をつけ、ここ火照っているぞ」  頬を指さされ、慌てて手で覆った。俺って……どうしてこう顔に出やすいんだ! 「さっき兄さんたちを迎えに行って……何か見たのか」  丈が目を細めて俺のことを見下ろしてくる。なんか余裕の笑みだよな。何もかもお見通しといった感じで……もう、その目……やめろよ。見つめられるだけで、俺がどうなるか知っている癖に。 「見てはない……けど」 「けど?」 「……聞いちゃったんだ」 「なるほど」  裸身の上半身ですっぽりと包まれて、丈の素肌の温もりを直に感じてしまうと、節操もない俺の身体が疼き出す。 「それで?」  焦らすように腰の曲線を大きな手のひらで撫でられて、ヒップを深く揉まれてしまう。 「丈、駄目だ……仕事に遅刻するぞ」 「洋が誘うからだ」 「誘ってないって……もうっ早く行けよ。続きは帰ったらな」  タイムリミットだ。俺の方から丈の後頭部に手をまわし、唇を押し付けた。ディープなキスを贈ると、丈も嬉しそうに応えてくれ、一気に立場は逆転する。 「うっ……はぁ……丈、待て! ストップ! 」 「洋は煽るのも、キスも上手くなったな。それにしても……今日は当直で戻らないのに、本当にいいのか」 「う……」  本当はもう丈が欲しくなっていた。  さっきのふたりの熱い声のせいだ……これ!    

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