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迫る危機 3

「洋、こっちこっち」 「安志!」 「急に呼び出して悪かったな」 「いや、俺もちょうど会いたかった」  横浜駅で久しぶりに安志に会った。  安志は昼休みを利用して抜けて来たようで、久しぶりに見る安志のスーツ姿。もうすっかり板についているよな。会社でも優秀で、セキュリティ部門で随分と活躍しているそうだ。幼馴染の活躍は少しくすぐったい。 「あれ? 洋、ちょっと太ったか」 「えっ」  全く何を言い出すのかと思ったら、思わず苦笑してしまった。 「久しぶりに会って、言うことがそれ? 」 「いや、健康そうになったな」  肩を揺らして大きく笑う安志を見て、昔から変わらない温かい奴だと思う。確かに食生活は潤っている。流さんの料理は美味しすぎるし、丈も本当にマメに食事を作ってくれる。朝食が大事だとか言って、すごい量を食べさせられているしな。 「安志こそ元気そうだ。涼とは会えている? 」 「まぁ……ぼちぼちな」 「この前も雑誌の表紙を飾っていたね」 「あぁどんどん垢抜けていくよ。もともとお洒落な奴だったから……俺は置いてけ堀だ」  自信なさげにしょげる安志を励ましたくなった。 「そんなことはない。安志もどんどんカッコよくなっているから、安心しろよ」 「洋~どうした? すっごく優しくなったな」 「はぁ? 前からだよ? 」  たわいもない会話の後に、安志の表情がふと真面目になった。 「あのさ、これやるよ。お守りみたいに一応持ってろ」 「何? 」  手渡されたのは小さなキーホルダー。  三日月の形をしたプラスチックと金属が組み合わさったものだった。 「実はこれを渡したくて、今日ランチに誘ったんだ」 「これ、何? ただのキーホルダーに見えるけど」 「これはさ最先端の護身用グッズだよ」 「ふーん、防犯ブザー? 」 「いや、もっと高度なの。俺の会社で新発売されたばかりの超小型GPS発信機なんだ」 「へぇ」  安志は説明書を広げて、ざっと使い方を説明してくれた。 「これさえあればリアルタイムGPS搭載だからスマホから遠隔にて位置情報をすぐに取得できるんだ。現在地検索して追跡できるし、緊急時のSOSメール送信ボタンもついている。……洋があのソウルで使った奴の進化版なんだ」 「……そっか、すごいな」 「まぁ緊急時に使うモノ。なんかお前の身内ってさ美形が多いし、必要かなって思って」 「あっなるほど」 「もちろん洋が一番心配だから、とりあえず先に一台。ちゃんと持っていてくれよ。最近物騒だから」 「ありがとう、なら涼にも必要だな」 「ははっそれもそうだ。でもあいつのことは直接俺が守りたい」 「うわっ惚気? 」 「そう! 」  久しぶりの安志からの呼び出しは、俺にとってタイムリーだった。   「なぁ安志。実はちょっと心配なことがあって」 「なに? 」 「翠さんの息子の薙くんのことで……」 「あーまだ俺は会えていないが、夏休みの終わりにやってきたっていう子だな。翠さんに似て美形らしいな」 「うん、そう。最近彼の周りが不穏な気がして、行動的な子で都会育ちだから、まだ中学生なのに渋谷にもよく遊びに行っているみたいだし、それに彼の友人の金遣いも荒いみたいで、何となく心配で……」  そこまで話すと、安志が目を細めた。   「洋、その子のこと可愛がってんだな。お前がそんなに他人のことを心配するなんて」 「そうかな? うん……そうだね。懐いてくれて嬉しい。俺より後に月影寺にやってきたからかな。先輩気分なのかも」 「そういう子がいてくれて良かったな。月影寺での生活が楽しいようで安心した」 「ありがとう」 「おっとまずい! そろそろ仕事に戻らないと、何か困ったことがあったら俺を頼れよ。きっと役に立つぞ」 「頼りにしているよ」   ****  安志と別れて横須賀線で、北鎌倉へ真っすぐに戻った。  電車に揺られながら、手にはもらったばかりの三日月型のキーホルダーを握りしめていた。  あ……そうか、安志と先日電話で話した時に、ちらっと本屋さんで絡まれた話をしたからだな。あいつ……心配して持たしてくれたんだな。  昔からいつも困っている時、手をそっと差し伸ばしてくれた。優しくて頼りになる、幼馴染であって、俺の親友だ。  車窓からは大船観音が良く見えた。この景色を見ると、あぁ家の近くまで帰ってきたなと思える。ずっと彷徨っていた俺にそういう場所が出来たのが嬉しくて、月影寺の平穏を守りたくて、必要以上に警戒してしまっているのかも。  そんなことを考えながら北鎌倉駅のホームに降り、木枯らしに吹かれながら改札口へと歩いていると、向いの東京方面のホームに翠さんの姿を見つけた。  あれ? どうしてこんな時間に東京方面に?  袈裟姿のまま電車に乗るなんて、珍しい。  いや違う、珍しいのではない。  何か良くないことが起きたのでは?  急にゾクッとしたのは、翠さんの表情が尋常ではない程、思い詰めたものだったから。だから思わずホーム越しに、叫んでしまった。  「翠さん‼ 」    俺の声に打たれたように、翠さんが顔をはっとあげた。  その時……間も無く上り電車の到着を知らせるアナウンスが入った。  

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