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僕の光 11

   俺たちはようやく月影寺に戻って来た。  本当に長い一日で疲労困憊だ。  丈には申し訳なかったが、助手席で少し眠ってしまった。 「ただいま」    やっぱり自分の家って、いいな。  月影寺の離れに一歩踏み入れるだけで、心が落ち着く。  ここは俺の家……俺と丈の家だ。 「丈、今日は薙くんを泊めてもいいよな?」 「あぁ、もちろんだ」  薙くんも、ほっとしたようだ。 「よかった、オレ……流石に今日はひとりは怖い。車の中でいろいろ思い出して」  薙くんを顔色を窺うとまだ青ざめていた。それもそうだろう。今日のことは、まだ十四歳の君が体験するには酷な出来事の連続だった。背負うものが多すぎた。  監禁され縛られ……そして翠さんがひた隠しにしていた秘密まで知ってしまったのだから、精神的ダメージは相当だろう。 「さぁ、まずは風呂でゆっくり温まるといい」 「そうするといいよ。薙くんの着替えは俺のでいいかな? 用意しておくからね」 「ありがとう、丈さん、洋さん……」  部屋に戻るとすぐ、丈は薙くんに風呂に入るように促した。確かに早く身体を洗って、綺麗さっぱりしたいだろう。薙くんが浴室に入ったのを確認してから、俺たちはやっとほっと顔を見合わせることが出来た。   「丈……いろいろありがとうな」 「何をだ?」 「ん、薙くんのこととか……」 「あぁ、私の甥っ子でもあるのだから当たり前だ、洋は心配するな」 「んっ」 「そういえば、さっきの『また』ってどういう意味だ?」  ぎょっとした。この前成り行きで薙くんを泊めてしまったことを、まだ話していなかったから。 「あっ実はさ、この前の当直の時、勉強を遅くまで教えていたら眠くなってしまったみたいで、その……俺たちのベッドに寝かしてあげたんだ」  途端に丈がむっとしたような表情を見せたので、焦ってしまった。 「……ふぅん……でも、大丈夫だったか」 「なにが?」 「あの日は天気が悪くて洗濯できなかったからな」  何を言われたのか、思い当たった。 「ばっ馬鹿!お、俺っシーツを取り替えてくる!」  恥ずかしいことを指摘されて、顔が真っ赤だ。  確かに……あのベッドで俺は夜な夜な丈に抱かれている。 「くくっ、洋は可愛いな」  そう言いながら俺のことを背後から抱きしめてくる丈の指先に触れると、とても冷たかったので驚いてしまった。 「丈……どうした?」  丈はさっきとは違う真剣なトーンで囁いて来た。 「洋。元気になってくれてよかったよ。今日はショックだったろう。あのようなシーンは、お前は特に苦手なはずだ」 「丈っ……」  やっぱり見透かされていたんだ。確かにいろいろ自分自身の過去の出来事を連鎖的に思い出してしまったが、それより俺が心配なのは…… 「丈だってショックだったはずだ。お兄さんがあんな事件に巻き込まれて……」 「……優しいな。実のところ、私だけ知らなかったのかと思うと恥ずかしくも悔しくもあった。あの男にまさか翠兄さんが長年に渡り辱めを受けていて、それを翠兄さん自ら伏せていたなんて信じられなかった」  丈は自分を責めている。 「……そうだね。でも、きっとそれは翠さんなりの覚悟だったと思う。当時の翠さんは流さんを守ろうと必死だったんだよ」 「そうだな。あの二人には私と洋のように切り離せない縁があるのだから……だが今日の翠兄さんが受けたダメージを考えると、もっとどうにかならなかったのかと思ってしまう。もっと何か術はなかったのか。翠兄さんが、あのような屈辱的な目に遭ってしまう前に……」  丈が俺に弱音をみせてくれた。だから思わず俺の方からキスをしてしまった。背伸びして唇を重ねてみると、指先だけでなく唇までも冷たくなっていて驚いた。  今すぐに温めてあげたいよ、俺の躰で……  丈は意外そうに眼を見開いて、俺の想いを受け止めてくれた。 「丈……もう責めるな。翠さんは救われた。長年の苦しみから解放されたんだよ」 「そうなのか……洋にそう言ってもらえると、本当に救われる」

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