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聖夜を迎えよう8 ~安志編~

 テーマパークはクリスマスムードが最高潮に高まっていた。夕暮れ時は特に綺麗だ。イルミネーションがポツポツと灯り出すと、海岸を模した入り江はムーディーな雰囲気をぐっと増していった。 「涼くん~こっち向いて! あーもう少し女の子の傍に寄ってもらえるかな」 「こうですか」    注文通りのポーズをひたすら取り続ける。こんなことを朝から晩まで繰り返して、もう二日目だ。今日は専属モデルをさせてもらっている雑誌の企画で、当選した読者さんと撮影会ということで、朝から百人もの女の子と写真をひたすら撮りまくっていた。流石に後半になると雑誌の広告パネルを持った指先が寒さでかじかんで、仕事とはいえ笑顔がひきつってしまう。  うっ……寒い。  今年は暖かいと思っていたら急な寒波で、今日に限って猛烈な寒さだ。今までこなした中でも、百人の女の子と写真を撮り続けるって、かなりキツイ仕事だった。 「はい! じゃあ一旦休憩ね。涼、ココア飲む?」 「助かります!」  マネージャーから手渡された温かい飲み物で、やっと呼吸が出来る感じ。さっきまで肺まで凍りそうな北風と格闘していたので、冷え切った躰に飲み物が沁み渡るな。  でもそっと時計を見ると後一時間ほどで解放されることが分かり、俄然元気が出た。  安志さんに、もうすぐ会える!  今日は12月23日で、明日はクリスマスイブ。今年は今日が日曜日で明日が祝日なんて最高だよ。安志さんの仕事もカレンダー通りだというので、約束は確約だ!  もうずっと家に戻っていないのも、元気がでない要因だ。忘年会からホテルにひとりで泊まっている。仕事が終り部屋に戻る頃には疲れ果てて……安志さんに電話する間もなく爆睡してしまっていた。  僕はもう、安志さんが恋しくて恋しくて……堪らない。 「さぁ、あと一クールで撮影も全部終わるよ。そうしたら涼は長期休みだろう。頑張って」  マネージャーに励まされ、再び仕事に戻った。  でもこれは、僕が選んだ道だ。  陸さんにも励まされた。しっかりプロ意識をもって臨もう! ****   土曜日は休日出勤だったが、今日は日曜日で仕事は休みだ。ふぅ……ボディガードの仕事が一段落していてよかったよ。ここ最近随分ハードだったが、カレンダー通りの休みが取れて嬉しい。  私用スマホを胸ポケットから取り出して確認したが、涼からの連絡はまだなかった。  ここ数日の涼の仕事の内容は、事前にしっかりと聞いていた。  忘年会の翌日から、泊りがけの屋外での撮影会。  うん、それはしょうがない。  あーでも電話もメールもやっぱりなかったな。  律儀な涼が連絡出来ないっていうのは、撮影がそれだけハードだったと物語っているんだよな。とにかく俺の十歳年下の可愛い恋人に栄養のあるものを食べさせたい。そんな思いでスーパーにやってきた。クリスマス間近のスーパーは幸せそうな家族やカップルで溢れて、いい光景だ。  そうだな、今日は暖かい鍋がいい。なんとなく涼がそれを望んでいる気がして、材料を見繕った。  テーマパークは吹きさらしで、極寒だったよな。頑張った恋人を早く労わりたい。    俺達は、毎日すれ違っている。モデルと学生を両立させる涼と、社会人の俺。最近は会いたい時に会えないのが、もどかしい。  お互いに同じように思っている。だからやっていける。一方通行の想いではないから、それさえも嬉しいんだ。  この時間なら……もう涼は家に戻っているだろう。思い切ってスーパーを出るなりメールを送ってみた。もちろん涼の撮影が順調に終わっていればの話だが。 「涼、仕事お疲れ様。鍋の材料を用意したよ。来るか」 「本当に? 食べたい!」 「こっちに来られるか。いつもの駅前の駐車場まで車で迎えに行くよ」 「行ける! 行く! あ……安志さんごめんね、連絡できなくて、今帰宅して風呂に入ったところなんだ」 「大丈夫だ。ちゃんと髪を乾かしてから来いよ」  素早い返信に、俺の頬も緩んでしまう。  月影寺に行くのは明日だが、正直それまで待てない。  もう待てない。今日……会いたい。だから会う。  いいだろう? お互い仕事頑張ったもんな。  ここ最近は、涼の家からほど近い駅ビルの駐車場で待ち合わせをしている。かえってこんな雑踏の中の方が、目立たないらしい。人に紛れる術を知った。やがて俺の車を見つけた涼が、素早く駆け寄って乗り込んでくる。    すらりとした黒いジーパン姿に暖かそうなチョコレートブラウンのダウンを緩く羽織り、フードを深く被っている。フードのファーに縁どられたその美しい顔は、さすがに疲労困憊といった様子で、ここ数日のハードさを物語っていた。  誰にも見られないように、すぐに車を走らせる。  本当は今すぐ抱きしめたいけれども―― 「涼、頑張ったな」 「安志さんに会えて嬉しいよ。すっごく会いたくて仕方がなかった。もう明日までなんて我慢できなくて、どうしようって思ってたよ。ほんと嬉しい」    ニコっと笑うと笑窪が出来るその美しい顔に、思わず見惚れてしまう。  素直に甘えてくれる仕草も好きだ。  ストレートに伝えられる言葉が俺を揺さぶる。  逢えなかった時間が、じわじわと埋められる瞬間だ。   「それにしても、ずいぶん荷物持って来たな」 「え……だってこのまま明日、月影寺に行くと思って。って、僕、先走りすぎ? もうなんか興奮しちゃって」 「嬉しいよ、俺もそのつもりだった。俺の家から直接行こう。今日は俺達だけのクリスマスだな」    そうだ。今からは俺達だけのクリスマス!  一日早いクリスマスを過ごそう。  この可愛い恋人を食べて食べて食べまくるクリスマス。あれ……なんか違うか。我ながら貪欲な嗜好に驚いた。 「安志さん……僕……実は……かなり溜まってる」 「ははっ。涼がそんなこと言うなんて珍しいな」  それってすごく嬉しいことだ。俺もだから……それならば……涼を抱くことを、躊躇しなくていいんだな。 「あっ! なんかあからさまだったよね。恥ずかしいや。本当は電話で話したかったけど、声聞いちゃうと、変になりそうで」 「おーい涼、もうそれ以上言うな。俺も変になるよ! とりあえず家に急ごう」 「うん!」  若い涼の情熱が、俺に100パーセント向けられているのが、本当に幸せだ。  

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