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『月のため息』(流・翠編)
【R18】
「寒いだろう。今すぐ温めてやるからな」
「流……」
流の大きな手のひらが僕の素肌を擦っていく。古い畳と薄い布団だけの今にも壊れそうな茶室なのに、僕にはここが極楽浄土のように幸せな場所だと思えた。
僕たちが動くたびに畳が軋み、大地からの冷気がこみ上げてくる。震える僕を守るように、すっぽりと流が覆いかぶさってくれる。もう小さい頃のように僕は流を抱っこ出来ないが……こうやって流の重みを全身で感じるのが好きだ。いつからだろう、僕の背丈を流はどんどん追い越して……こんな逞しい男になったのは。
「あの病室以来だな、翠を抱くのは」
「うん……そうだね」
着物を忙しなく脱がされていく。
「あ……」
「なんだ?」
「着物は、もう少し丁寧に脱がしてくれないか」
「悪い」
「……これは、とても気に入っているから」
「あぁ、そうだな。これは翠のために作ったんだ。俺からのクリスマスプレゼントだ」
「ありがとう。僕の好きな色だったので、嬉しかった」
「そうだな。萌黄色は翠の好きな系統だよな」
「その……僕からも贈り物があるのだが」
「なんだ?」
「……そこの包みと取ってくれ」
今宵はこうなる気がしていたのは、僕のほうだ。茶室に連れ去って欲しかったのは僕の方だ。だから事前に、ここに贈り物を忍ばせておいた。
「これか。開けても?」
「もちろんだ、流が使うものだ」
包みの中身は着物の絵付けに使う筆だった。この寺に古くから出入りしている駿河の筆工房に頼んで、特注の物を用意させた。
「おお、いい筆だな」
「描きやすそうだと思って」
「これなら繊細な細い線が描けるよ。しかも腰があり含みの良い最良の筆だ。翠……ありがとう」
「良かった。何を贈ろうか随分迷ったが、お前がいつも使うものがいいと思って」
「翠、これを試しても?」
試すって? こんな情事の真っ最中に紙に絵を描くのかと不思議に思ったが、芸術肌の流のことだからと、深く考えずに頷いてしまった。
「もちろん、いいよ。試してみてくれよ」
「いいのか、嬉しいな。一度やってみたかった」
「んっ? 何を?」
「憧れていたことをさ!」
耳元で囁いた流が、いきなり僕の剥き出しになった胸元に筆を走らせたので驚いてしまった。しかも触れるか触れないかの瀬戸際のところを攻めてくる。むず痒い……いや……それとも違う妙な感覚が、ピリッと躰に走った。
「えっ!あっ……やめろ! なんでそんな所を」
「絵師なら憧れることだよ。これは『筆責め』と言うんだ」
「流……僕はそんなつもりじゃ」
「試したいんだ。さっき、してもいいって言ってくれただろう」
「こんなつもりでは……っ」
僕が贈った筆は腰があってよくしなる。それを良いことに思いっきりその筆で乳輪を擦られ、乳首を跳ねられてしまい、耐え切れずに変な声をあげてしまった。
「あっ……ん……っ」
実は筆の先端が乳頭に触れるのが、想像以上に気持ち良かったのだ。
「翠のことは……乳首でも感じられるようにしたい。俺の手で翠の躰をもっと開発したい」
「……馬鹿、そんなことしなくても充分感じているよ。いつも僕は」
途端に流はシュンと怒られた子供のような顔をしたので、慌ててしまった。弟の流の、哀しげな顔は僕を駄目にする。
「分かったよ。流……なぁそんな顔するな。僕が贈った筆だ。もう好きに使うといい」
「ありがとう、翠ならそう言ってくれると信じていた。悪かったな寒いのに中断して」
「謝ることじゃ……あっ」
そこからはもう会話を出来る状態でなかった。サラサラとまだ水分を含んでいない筆先で、皮膚の神経を刺激されて、くすぐったさと焦れったさなどがないまぜになった微妙な感覚が発生し、やがて性的な快感に転化していくのを感じてしまった。
「ん、流……もうちゃんと触れて欲しい」
「翠、かなり気持ちよくなったな。ここを見てみろ。先端から蜜が溢れてるぞ」
流の手によって導かれたのは、僕の張り詰めたモノ。もうこんなになっているなんて……恥ずかしい。流はその先端の蜜を筆で拭った。
「すごいな、筆が湿る程、濡れている」
「りゅ……流は変態だ! もう、それ以上言うな」
「次の機会には翠の躰に絵を描く。本当は今日したいが、もう俺の方がもたない」
ガバッと流がまた覆いかぶさり、僕の首筋から胸にかけて舌を這わしてきた。首筋は特に弱くゾクゾクした快感が走り思わず喉を反らせてしまうと、そこをさらに流が攻めてくる。
「はぁ……あぁ」
脳裏に白い閃光が光る!
僕の躰は流の愛撫に感じまくりだ。流の舌先で胸の突起を嬲られて、気持ち良すぎて涙が零れそうになった。
「筆の刺激で、粒がコリコリと硬くなっているな」
舌先で飴玉を転がすように弄られ身悶えた。深いキス、舌先を迎え入れ蹂躙されるかのように貪られる。そして腰を抱かれ下半身を密着させられる。
「一度これで出そう。俺は今日一度じゃ到底済まない。だが傷が癒えたばかりの翠の躰にあまり負担をかけたくない」
どうやら素股という行為に入っていくようだ。僕の腿の間に流の性器を挟みこんでの律動……全部、これも流が僕に教えてくれたことだ。
流がゆっくりと腰を上下に動かしだす。するとすぐに流の性器の先端からは透明の液体が滲み、滑りが良くなる。僕の性器も流が動くことによって腹部で擦られた快楽を感じ出していた。
「あ……ふっ…」
「翠、感じているのか」
無性に早くイキたい衝動に駆られる。さっきの筆といい今日は焦らされてばかりだ。
「も、もっと……動いて」
流のモノを挟む足に力を入れてしまった。
「くっ……翠……煽るな」
流の律動が一段と激しく大きくなっていく。どんどん加速していく。
「…っ、ん…っ…っ、あーっ」
どうやら二人同時に放ったようだ。僕は足を開いて流のものを解放してやった。僕のと流の液体が混ざり合って、お互いの腹の上がぐっしょりと濡れていた。なんていう量を……これは風邪をひきそうだとつい苦笑してしまった。
「翠は、まだまだ余裕だな」
流は指でふたりの出したものを拭い、それを僕の窄まりにたっぷりあてがって、今度は流自身をズシっと埋め込んだ。
「あうっ!」
熟れた入り口が、流のものを吸い込むように呑み込んでいく。
僕は脚を大きく開脚させられ、流の律動で上下に揺さぶられていく。
いつの間にか吐く息が、白くなっていた。
真夜中の気温はもう零下なのか。
ひどく寒い夜なのに、僕たち二人の肌は汗ばんでいた。
「はっ……はっ」
律動の度に漏れるふたりの吐息が重なっていく。
吐息によって生まれた白い霞が、茶室にぼんやりと広がっていく。
「翠、もっと感じろ」
「あっ……駄目だ。それは」
流は挿れていたものを一度抜き、大きく僕の脚を、僕の頭の方へ持ち上げた。その姿勢を取らされると、すぐに何をされるのか理解してしまった。
「やっ……」
すぐに流の舌が僕の窄まりを舐め、舌先で突かれる。震える腰は流の手によってしっかりホールドされている。恥ずかしくて身をよじってしまう様子を、流が満足げに見下ろしていた。
「翠のその顔が好きだ。俺だけにしか見せない表情。淫らな翠……」
「馬鹿。本当にお前は馬鹿だ。そして全部受け入れる僕も……」
もう一度脚を下ろされ今度は膝裏を掴まれ大きく開かれ、ぐぐっと最奥まで挿入された。流の律動はさっきの比ではない。大きく身体がずれるほど突かれまくり、擦り上げられ、内部をぐちゅぐちゅと音が鳴る程大きくかき回された。
「りゅっ……流」
いよいよラストスパートだ。思わずしがみつくように流の背中に手を回し、内部に迸る熱を全部受け止めた。僕のも、もう一度流の腹を濡らした。
こんな寒空に、大の男が絡み合い、もう汗だくだ。
「翠、メリークリスマス」
「流、メリークリスマス」
ふたりで迎える聖夜は、こんなにも濃厚な夜だった。僕は流に抱かれている間、一度もあのおぞましい過去を思い出さなかった。思い出さなくて済むように、思い出す暇がないように、流が激しく求め抱いてくれたのだと悟った。お互い脱力し抱き合ったまま暫し目を閉じて、休息した。
(ん……? なんだろう)
ふと冷たいものが顔にあたったので、流の肩越しに天井を見つめると、隙間から小さな氷の粒が舞い降りて来ていた。
汗ばんだ素肌にあたると、それはすうっと溶けていく。
――淡雪か。
流の背中にも降り積もっては、すぐに熱で溶けていく。
この茶室の天井はもうそろそろ終わりだな。建て直す時が近い。
部屋に雪が降るなんて……でもこれも一興だ。
「翠……どうした?」
「流、雪は解けてしまうが……僕の流への想いは溶けてなくならないよ」
「優しいことを……俺は幸せだ。翠とこんなクリスマスを迎えられて……」
「うん、ふたりだけのクリスマスは……はじめてだからな」
「あぁ、恋人になってはじめてのクリスマスだ」
『月のため息』(流と翠編)了
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翠さんはこの後やはり風邪をひいてしまい、大晦日の風邪っぴき話に続くのです。しかし濃厚なRを書くのはとてもエネルギーが要りますね。そしてあんまり激しすぎるのも受け入れられない気がして……マイペースな創作なので、万人受けする話が相変わらず書けませんが、これからもどうかお付き合いしてくださる方がいますように^^
※面相筆……筆先が鋭く細い線が描きやすいため、能面や日本人形の目鼻などを描くのに用いられたところに名前の由来がある筆で軸が二段三段になっているつくりの細筆のこと。陶器の絵付け、日本画、 友禅図案(デザイン)、日本人形の顔、能面、紋書き、仏画などの使われます。
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