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慈しみ深き愛 8

「翠、ちょっと味見してくれないか」 「うん、いいよ」 「ちらし寿司なんて久しぶりに作ったから、酢の具合はどうだろう?」  流に呼ばれて近寄ると、突然腰を抱かれ、抱き寄せられた。驚いて顔をあげると、そのまま顎を掴まれ、口の中にご飯を放り込まれた。 「強引な食べさせ方だね。うん……丁度いいよ、あぁそうか。どうして、ちらし寿司なのかと思っていたが、今日が『ひな祭り』だからなのか」 「そういうことだ。我が家は男所帯だが、今年は嫁さんを迎えて初めての節句だから張り切っているわけさ。それに洋くんは2月27日が誕生日だが、ソウルに行っていたので、当日祝うことが出来なかったので、それも兼ねてだ」 「洋くんの誕生日とひな祭りか。なんだかおめでたいね」 「そうだ。せっかくなら部屋も飾りつけしないか。そうだ、母さんの雛人形が確か納戸にあったような」  流の眼が、突然ワクワク、キラキラと輝き出した。  くすっ、流は結構イベント好きなんだよな。 「じゃあ、それを飾ってみるか」 「いいのか!」 「うん、僕が持ってくるよ、流は料理を続けてくれ」 「ちょっと待て。その……大丈夫なのか。もう目は霞まないか、頭は痛くないか」  流が僕の頬にそっと触れ、そのまま額に手をあててくれた。  あれ? これはいつも幼い頃、僕が流にしてあげた動作と同じだ。  こんな風に流の身体に染みついた動きは、僕が教えたことばかりなので、思わず微笑んでしまう。やっぱり流は……僕が育てたようなものだ。ずっとずっと大事な弟だった。もちろん今も……大事な弟で……大切な人。 「おいっ、どうして笑っている?」 「いや別に……行ってくるよ」  納戸に行くために廊下に出ると、薙が壁にもたれてスマホを弄っていた。 「あれ? 薙、こんな場所で何をしている? スマホばかりやって目が悪くなるよ」 「何、言ってんだよ、父さんたちが延々とイチャついてるから、部屋に入るに入れなかったのに」 「えっ……」 「まぁいいよ、もう慣れたし! でもオレの前はいいけど、他では気を付けた方がいいよ」 「な……」  まさか14歳の息子から、そんなことを言われる日が来るんなんて……脱力して、へなへなとその場に座り込んでしまった。 「翠っ、どうした? やっぱり具合が悪いのか」  僕を目ざとく見つけた流が、血相を変えて駆け寄って来て、そのまま横抱きしようとしてくるから、更に顔が火照ってしまった。 「ち……違う! お前がそんなことばかりするからだ。もう離せっ」  流の手を振り解くと、呆れた表情を浮かべる薙と目が合った。  でも、薙はくすぐったそうに笑ってくれていた。  この子のこんな笑顔、久しぶりだ。幼い薙の面影を彷彿する笑い方に懐かしさが込み上げてくる。 「その、どんな父さんでも、もう嫌じゃないから安心しろよな!」  照れくさそうにそっぽを向いて言い放つ仕草が、まだ子供じみて可愛らしかった。流の手から離れた僕は、今度こそと、薙を抱きしめた。 「とっ……父さん? よ、よせって! オレはそういうの、慣れてない」 「ごめん。薙……少しだけ……こうさせてくれ」  まだまだ華奢な少年の身体……久しぶりに抱きしめる息子の甘い匂い。  さっきまでの具合の悪さが吹き飛ぶような、温かな気持ちになった。 「薙はポカポカだな。子供は体温が高いんだね」 「オレ、もう14歳だ」 「まだ14歳だよ」 ****  居間に入ろうとして、ギョッとした。  父さんと流さんが、至近距離で何かしている。よくよく見れば、ちらし寿司を味見しているだけだったが、なんとも甘い雰囲気で、こっちが照れてしまう。  今入ったらお邪魔だろうと、廊下の壁にもたれてスマホを弄っていると、父さんに話し掛けられた。  やりとりしているうちに、父さんが突然オレを抱きしめてきたので、驚いた。 「とっ……父さん? よ、よせって! オレはそういうの、慣れてない」 「ごめん。薙……少しだけ……こうさせてくれ」  父さんの声は微かに震えていた。  父さんも緊張しつつオレを抱きしめているのだ。  じっとしていると、父さんの温もりを感じた。  相変わらず、手が冷たいな。  そう言えば小さい頃のオレ……よく父さんに抱っこされていたな。  まだ母さんと暮らしていた頃だから、5歳くらいか。 『なぎ、お膝においで』 『パパぁ』 『あぁ、お前は日溜まりみたいに暖かいね』 『パパ、さむいの?』 『うん……少しね』 『ふーん、じゃあボクがいっしょにいてあげる』 『ありがとう。なぎ……可愛い僕の息子』  あの頃の父さんはいつも元気がなくて、子供心に心配だった。でもオレを抱っこしてくれる父さんの心は、いつも優しく温かかった。  オレは……ちゃんと父さんに愛されて育ってきた。  これからも、そうだ。 あとがき(不必要な方はスルーで) **** こんばんは!志生帆海です。 今日は、何となくほっこりした話を書きたかったのです。 いつも読んでくださってありがとうございます。 翠と流は私の中でもお気に入りCPです、皆さんはいかがでしょうか。 あんなにつっぱっていた薙が翠に優しい言葉をかけてくれると、 私も嬉しくなるという親心^^ ではまた明日♡

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