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特別番外編 クリスマスの優しい音 2
「洋が積極的なんて珍しいな」
「そういう風に、いちいちいうなよ」
丈の冷たい指先を掴んで息をフーフーと吹きかけてやると、丈は嬉しそうに口元を緩めた。
「へぇ今日の洋は優しいな」
「ん……そんなことない」
「ふっ、さっきは涙ぐんでいた癖に、素直じゃないな」
本当は素直に寂しかったと言えればいいのに……天邪鬼な俺の口からは、そういう言葉はなかなか吐き出せない。
「おいで、気が変わった」
「どこへ?」
「シャワーを浴びてからにしよう」
「そう?」
「洋も一緒にだよ」
「えっ」
****
「あっ、嫌だ。それ……もう……」
さっきからずっと、浴室内に立たされ、背後からガバっと抱え込まれ、尻の窄まりを彼の指先で弄られていた。しつこい程長くじっくりと……
「あぁもうっいやらしい手だな。さっきは冷たくなっていたクセに」
「さっきはかじかんで良く動かなかったが、今は自由自在だ。ほらっ」
「あっ……んっんっ──」
丁寧に解されたそこは、まだかまだかと丈を待って期待に震えている。こんな躰になってしまったことが恥ずかしいのと同時に嬉しくもなった。
「丈……長い海外出張だったな」
「あぁ二週間はきつかった。途中で洋のことを想って抜く羽目になったよ」
「えっ……おい? そんなこと報告しなくていいから」
「洋はどうだった? 寂しくなかったか」
「……」
「強情だな。これでも言わないか」
「あっ……うっ意地悪するな」
「今日はちゃんと聞きたいんだ」
指先で入り口をさっきからやわやわと撫でまわされている。本音を吐かないと挿入しない気だな。もう強がってもいられない。俺の方だって二週間も丈に触れてもらっていないのだから、我慢の限界だよ。
「分かった……分かったからもう意地悪すんなよ」
「さぁ言ってくれ」
今度は唇をぴったりと合わされて呼吸を奪われる。さっき迄冷たかった丈の唇は燃えるように熱くなっていた。同時に俺の唇も熱をもっていた。
呼吸は熱風になっている。唾液を交換すると躰の奥から沸き起こる欲情にまみれてしまう。
「丈が欲しかった。……丈ので満たして欲しくなっていたんだ。だから挿れてくれ」
「ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだよ。洋自らの言葉が……」
「あっ……あぁぁ」
待ってましたとばかりに丈が俺の胎内に自身をグッグッと圧をかけて侵入させてきた。出張に行く前日まで毎日のように抱かれていたので、少しだけキツクなっていたそこが丈の大きさにピリッと伸びていく刺激に、ブルっと震えた。
「ん……あぁ」
刺激が強過ぎて立っていられなくなり、思わず浴室内のタイルの壁に手をついた。腰を両手で掴まれズンっと上に突き上げられると、入り口あたりが擦れて堪らなく気持ちよくて困惑してしまった。
「駄目だ……ここじゃ声……出せない」
テラスハウスの浴室には小さな窓がついているから、冷や冷やしてしまう。結局、必死に口を手で塞いで悶え続ける羽目になった。
曇りガラスの向こうは雪景色だ。
しんしんと雪が積りゆく世界が広がっているだろうに、このテラスハウスの中のふたりは、その雪を溶かしてしまう程の熱い熱い行為を繰り広げていく。
「寒くないよ……丈といると俺……なんだか溶けてしまいそうだ」
「私も洋の中で溶けてしまいそうだよ」
クリスマスの朝……
世界は雪化粧して俺と丈の熱い営みを見守ってくれているようだ。そんな清らかな空気に包まれた君との情事だ。
きっとこの先もずっとこうやって過ごしていく。そんな予感で満ちた朝だった。
たとえ天地がひっくり返るような悲しい出来事が俺たちを襲っても、俺たちは離れない。
ずっと一緒に生きて行く。
風呂から出た後、丈が疲れ果てた俺の躰を丹念に拭いて髪も乾かしてくれた。そうしてもう一度ベッドに潜り込んだ。今度は丈もパジャマ姿だ。
丈に抱かれるように羽毛布団に潜ると、昨夜と違ってとても温かい。
人肌っていいよな。落ち着くよ……とても。
「丈……雪の降り積もる音が聴こないか」
「確かにしんしんと音がするな」
「あぁ……なんだか満たされた気分だから、耳を澄ましても聞こえない程の微かな音を聴きたくなるよ」
丈が雪を踏み鳴らしながらテラスハウスに戻ってくる音。
俺たちの営みを見守るようにしんしんと降る雪の音。
クリスマスの朝……こんなにも優しい音を感じるのは、互いに想い合う幸せな心のおかげだ。
君が好きだ。
番外編 『クリスマスの優しい音』 了
あとがき
『重なる月』の読者さま
メリークリスマス!!
いつも読んでくださりありがとうございます。
創作は時に孤独に陥ることもあるのですが、リアクションで応援ありがとうございます。
お礼を込めて、クリスマスによせて温かいSSをお届けしました。
皆様も素敵なクリスマスをお過ごしください♡
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