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夏休み番外編『Let's go to the beach』17
酒臭い息に埋もれながらうつらうつらしていると、どこからか生暖かい風が吹いてきた。
あぁこれは海風か……懐かしい匂いだ。
誰かが窓を開けてバルコニーに出たようで、カーテンが揺れていた。
そうか……俺はあのまま寝てしまったのか。しかしまぁよく飲んだものだ。滝沢って男はかなりの酒豪で、正直互角だった。だから飲み過ぎると翠が心配するのに、ついつい負けるものかと浴びるように飲んでしまったわけさ。
翠に心配かけたよな。
胸元に温もりを感じ、見下ろすと翠が俺に寄り添って眠っていた。その穏やかな寝顔、安定した規則正しい寝息にほっとする。
今日はよく眠れているようで、安心した。
翠……頑張ったな。
住職としてお盆の時期を乗り越えるのは体力がある人でもハードだ。翠はもともと躰が丈夫ではないのだから、俺がしっかりサポートし労ったつもりでも、日に日にやつれていくから、心配だったんだぜ。
額に玉のような汗をかいていたので、指先でそっと拭ってやる。翠のものなら汗すらも甘美に感じてしまう。だからそれを俺の口に含んだ。
しょっぱいな。
その塩気に……日中にシェードの中で翠の胸の粒を囓ったり舐めたりした扇情的な情景が蘇ってきた。
まずいぞ……禁欲して二週間。もうそろそろ限界だ。
翠を抱きたい。ただそれだけの突き上げるような衝動に駆られた。
しかしこの部屋では無理だ。丈も洋くんもいる相部屋だ。だが旅の思い出が欲しい。そう願うのは無謀だと分かっていても、俺に寄り添うように眠る翠を間近で見ていたら湧き上がる欲情が収まらなくなってきた。
どうしようか。
己の股間に手をあててみれば、もう硬くなる兆しが見えている始末だ。あぁ参った。10代の子供のように……翠のこととなると見境がなくなるのが今の俺だ。
だが俺は、馬鹿みたいに反応する今の俺が好きだ。10代や20代の頃のように、悶々と耐えなくていい、手を伸ばせば届く距離に、崇高な兄は降りてきた。
今は……無防備に俺の胸にもたれて眠っている。
「翠……翠……」
「ん……流、おしっこか」
へっ……?
おいおい一体いつの時代の夢をみているのだか。
確かに昔、月影寺の古びた離れに泊まると、渡り廊下を歩いて夜トイレに行くのが怖くて、兄に付き合ってもらったが。
だがちょうどいい。寝ぼけた翠を使ってしまおう。
「兄さん、トイレに行きたい」
「ん……しょうがないな。ほら」
くくっ、なんだよ。えらく可愛いな。本気で寝ぼけているのか。
「兄さん、トイレは外みたいだよ」
「ん……わかった……兄さんがつきそってあげるから、我慢するんだよ」
「うん!」
声色をわざと幼くして答えると、翠は目をこすりながら俺の手を引いて歩き出した。
なるほど、これはおもしろい。
部屋を出ようとした所で、寝ていたはずの丈に呼ばれた。
「流兄さん、どこへ? 」
「翠とちょっとな」
「はぁ……あっそういえば砂浜に出る階段の左手に、いい感じの小屋がありましたよ」
「へぇ耳よりなことを、ありがとうな」
「いえ……まぁ私も……下心あって調べたもので」
馬鹿正直に答える丈。お前も相当可愛いよ。
だからお前達にもラッキーな時間をやるよ。
「俺と翠はしばらく戻らないぜ。だから洋くんを抱くのなら今のうちだ」
「なっ……そんなつもりでは」
「遠慮するな。せっかくの夏の旅行だ」
「まぁ……それはそうですが」
「塩気を含んだ躰も美味しいぜ」
「にっ兄さん! 」
「しーっ静かにしろよ翠が覚醒しちまう」
翠のことを見ると、よほど眠いのか俺の腕を掴んだまま壁にもたれ目を閉じていた。
よしよし、まだ寝ぼけているな。
「兄さん、トイレに早く行きたいよ」
「うん、わかった。あれ……ここどこだ? 」
「トイレなら外だよ 」
「そう? 」
「こっちみたいだ」
最初は兄さんが手を引いていたが、いつの間にか俺が前をグングンと廊下を歩き出していた。そうなれば逸る心が暴れ出す。
欲しい! 欲しい! 翠が欲しい! 我慢出来ない!
日中、中途半端まで高められた熱を持て余していた。酒で誤魔化したが、もう無理だ。
宿から砂浜に出ると丈の言った通り、保養所が所有している小屋が見えた。
なるほど……丈が下調べしただけあって使えそうだ。
もちろん目的はただ一つ。
愛しい翠を抱く――
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