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夏休み番外編『Let's go to the beach』21
オレンジ色の光が海上を走り、僕たちを包み込む。
「今なら掴めそうだ」
「あぁ」
僕たちは東の空から昇ってくる朝日に向かって、大きく手を伸ばした。その手で光を掴み、更に流と僕の手を強く絡ませた。
もう離れない……
遠い昔離ればなれになった僕と流の手は、今は力強く結ばれている、重なっている。
「掴んだぞ」
「掴めたね」
克也の事件の後、しみじみと思った。
僕にとって、流の存在が光だと。
月影寺に視力を失って戻ってきた時から漠然としていたことを、確信できた。
お前がいるから、僕は生きている。
お前の光を追い求めていく。
この先もずっと……それは変わらない。
「翠……外に行くか」
「そうだね」
流と肩を並べ、ゆっくりと砂浜を歩いた。まだ早朝で人気のない砂浜には、波の音しかしなかった。
爽やかな海風が遙か彼方からやってきて、僕たちを通り過ぎ吹き抜けていく。
新雪のような砂を踏みしめ、黙々と歩いた。
振り向くと僕たちの足跡は所どころ波にさらわれて消えていたが、それでいいと思った。過去よりも今、そして未来に向けて歩んでいくのだから。
「さてと……流石にそろそろ部屋に戻っても大丈夫か」
「何がだ? 」
「丈と洋くんだよ。ふたりにも時間をたっぷりとやったからさ」
「そんなことを? 」
流がニヤリと笑う。
「そうだ、風呂に寄ろう。朝風呂はいいぞ」
「そうだね」
「俺の躰……ガビガビだ」
「ん? 」
「昨夜、翠が騎乗位だったからさ」
「え? あっ」
翠は真っ赤になった。
おいおい、朝日よりも赤いぞ!
変態じみているが、翠の飛沫を浴びて嬉しかったし、それを消し去るのがもったいなくて……などと言ったら、この兄はカンカンに怒るだろうな。
****
部屋のカーテンを開くと、部屋に明るい朝日がぱっと飛び込んできた。生まれたての光を浴びる洋の背中が美しくて、浴衣を着せるのが躊躇われる。
昨夜深く愛し合った躰を気怠げに白いシーツに投げ出し……うつ伏せに眠る洋。
そういえば出逢って間もない頃、海が近い温泉宿で洋を朝まで抱いて抱き潰したことがある。
あの頃と何も変わっていないよ。君は……
しかし昨夜はかなり深く、長時間に渡って洋を抱いてしまった。疲労の色が濃い横顔だ。このままゆっくり眠っていて欲しいと思うが、そろそろ兄達が戻ってくるだろう。流石にこの姿ではまずいだろう。洋に後で絶対に怒られるだろうし。
兄達も深い逢瀬だったのか、結局朝まで部屋には戻ってこなかったな。
制約の多い彼らにとって、息抜きとなる休日だったろう。そうなるために弟として役に立てたのならば幸いだ。
さてと……流石に浴衣を羽織らせようと襖を開けると同時に、逆側の襖が開いた。
「丈、おはよう! 戻ったぞ」
「あっ……」
まずい……洋が裸のままだ。
布団を肩までかけ直しておいて良かったが……
「洋くんは? 」
「……まだ寝ています」
「ははん、疲れたんだな~よしもう少し寝かしてやれよ」
「……そうします」
今起きるのは、洋にとっても私にとっても、かなり気まずいな。
「丈はその間、朝風呂に行ってこいよ。俺たちも行ってきたが気持ちよかったぞ。風呂場にも朝日が届いて、オレンジ色なんだ」
「でも……洋が」
「ほら行けよ。お前もガビガビだろ?」
「え? 」
「くくっ」
半ば押し出されるような形で、部屋から出されてしまった。
洋、すまない。頼むから戻ってくるまで、寝ていてくれよ。
****
「ん……丈、どこだ?」
ふと目覚めて丈を探すが姿が見えない。布団の中でごそごそしていると、流さんに声をかけられた。
「洋くん、やっと起きたな。君は本当に寝坊助だな」
「あ、おはようございます。あの、丈は……」
「汚れていたから、朝風呂に行かせたよ」
「? そうだったんですか」
「洋くん、昨日はゆっくり楽しめたかい? 席を外した俺たちに感謝して欲しいな」
「え? どういうことですか」
「夜中、いなかったからさ」
「えー!!」
なんだって! 俺……てっきり二人が眠っていると思って、すごくすごく声を我慢したのに! どうなっているんだよっ、丈の奴!
急にムカムカして、布団から飛び起きてしまった。
「俺、丈の所に行ってきます! 」
そのままスタスタと風呂場に向かおうとスリッパを履いて、ドアノブに手をかけると、翠さんが血相を変えて飛んできた。
「少し待って! 洋くん! 君、裸! 」
「へっ? わっ! わわ……」
足下を見たらスースーしている。寝起きでぼんやりしていたからって、これはないよなぁ。慌てて前を隠してしゃがみ込むしかなかった。
「洋くん、君って本当に……」
「くくくっ、これじゃ丈が過保護になるはずだ」
「すっ、すみません」
「愛されたんだね」
「背中の痕……すごいな。日焼けよりもこっちが似合うよ」
翠さんと流さんに冷やかされて、もう涙目だ。
丈も丈だが、君の兄達もなかなかだ。
そして一番まずいのは、俺なのか。
楽しい夏の旅行の締めくくりがこんなドタバタでどうかと思うが、なんだかおかしくなって、結局俺も笑ってしまった。
「翠さんも流さんも酷いです。俺の裸は高くつきますよ!」
「うはっ、丈が帰ってくる前に、早く浴衣を着ろ~」
「そうだよ洋くん、僕たちだって、丈に怒られるのはコワイからね」
海に行こう。
海で遊ぼう。
海で笑おう。
この夏の海は……皆の心を開いてくれる場所だった。
昔出来なくて心残りなことがあるのなら、これからすればいい。
出逢った人としっかり言葉を交わし心を重ねて……思い出をどんどん作っていけばいい。
もう何もしないで待つだけの俺じゃない。
自分から波に飛び込んで、泳いでみたいんだ。
夏休み番外編『Let's go to the beach』了
あとがき (不要な方はスルー)
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志生帆海です。 番外編『Let's go to the beach』なんと21話も続きました。楽しんでいただけたのなら嬉しいです。応援ありがとうございました。
あと2話クリスマスのお話を載せますね。季節外れな話ばかりですみません。
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