1182 / 1585

夏休み番外編『Let's go to the beach』21

 オレンジ色の光が海上を走り、僕たちを包み込む。 「今なら掴めそうだ」 「あぁ」  僕たちは東の空から昇ってくる朝日に向かって、大きく手を伸ばした。その手で光を掴み、更に流と僕の手を強く絡ませた。  もう離れない……  遠い昔離ればなれになった僕と流の手は、今は力強く結ばれている、重なっている。   「掴んだぞ」 「掴めたね」  克也の事件の後、しみじみと思った。  僕にとって、流の存在が光だと。  月影寺に視力を失って戻ってきた時から漠然としていたことを、確信できた。  お前がいるから、僕は生きている。  お前の光を追い求めていく。  この先もずっと……それは変わらない。 「翠……外に行くか」 「そうだね」  流と肩を並べ、ゆっくりと砂浜を歩いた。まだ早朝で人気のない砂浜には、波の音しかしなかった。  爽やかな海風が遙か彼方からやってきて、僕たちを通り過ぎ吹き抜けていく。  新雪のような砂を踏みしめ、黙々と歩いた。  振り向くと僕たちの足跡は所どころ波にさらわれて消えていたが、それでいいと思った。過去よりも今、そして未来に向けて歩んでいくのだから。 「さてと……流石にそろそろ部屋に戻っても大丈夫か」 「何がだ? 」 「丈と洋くんだよ。ふたりにも時間をたっぷりとやったからさ」 「そんなことを? 」  流がニヤリと笑う。 「そうだ、風呂に寄ろう。朝風呂はいいぞ」 「そうだね」 「俺の躰……ガビガビだ」 「ん? 」 「昨夜、翠が騎乗位だったからさ」 「え? あっ」  翠は真っ赤になった。  おいおい、朝日よりも赤いぞ!  変態じみているが、翠の飛沫を浴びて嬉しかったし、それを消し去るのがもったいなくて……などと言ったら、この兄はカンカンに怒るだろうな。 ****  部屋のカーテンを開くと、部屋に明るい朝日がぱっと飛び込んできた。生まれたての光を浴びる洋の背中が美しくて、浴衣を着せるのが躊躇われる。  昨夜深く愛し合った躰を気怠げに白いシーツに投げ出し……うつ伏せに眠る洋。  そういえば出逢って間もない頃、海が近い温泉宿で洋を朝まで抱いて抱き潰したことがある。  あの頃と何も変わっていないよ。君は……  しかし昨夜はかなり深く、長時間に渡って洋を抱いてしまった。疲労の色が濃い横顔だ。このままゆっくり眠っていて欲しいと思うが、そろそろ兄達が戻ってくるだろう。流石にこの姿ではまずいだろう。洋に後で絶対に怒られるだろうし。  兄達も深い逢瀬だったのか、結局朝まで部屋には戻ってこなかったな。  制約の多い彼らにとって、息抜きとなる休日だったろう。そうなるために弟として役に立てたのならば幸いだ。  さてと……流石に浴衣を羽織らせようと襖を開けると同時に、逆側の襖が開いた。 「丈、おはよう! 戻ったぞ」 「あっ……」  まずい……洋が裸のままだ。  布団を肩までかけ直しておいて良かったが……   「洋くんは? 」 「……まだ寝ています」 「ははん、疲れたんだな~よしもう少し寝かしてやれよ」 「……そうします」  今起きるのは、洋にとっても私にとっても、かなり気まずいな。 「丈はその間、朝風呂に行ってこいよ。俺たちも行ってきたが気持ちよかったぞ。風呂場にも朝日が届いて、オレンジ色なんだ」 「でも……洋が」 「ほら行けよ。お前もガビガビだろ?」 「え? 」 「くくっ」  半ば押し出されるような形で、部屋から出されてしまった。  洋、すまない。頼むから戻ってくるまで、寝ていてくれよ。  **** 「ん……丈、どこだ?」  ふと目覚めて丈を探すが姿が見えない。布団の中でごそごそしていると、流さんに声をかけられた。 「洋くん、やっと起きたな。君は本当に寝坊助だな」 「あ、おはようございます。あの、丈は……」 「汚れていたから、朝風呂に行かせたよ」 「? そうだったんですか」 「洋くん、昨日はゆっくり楽しめたかい? 席を外した俺たちに感謝して欲しいな」 「え? どういうことですか」 「夜中、いなかったからさ」 「えー!!」  なんだって! 俺……てっきり二人が眠っていると思って、すごくすごく声を我慢したのに! どうなっているんだよっ、丈の奴!  急にムカムカして、布団から飛び起きてしまった。 「俺、丈の所に行ってきます! 」  そのままスタスタと風呂場に向かおうとスリッパを履いて、ドアノブに手をかけると、翠さんが血相を変えて飛んできた。 「少し待って! 洋くん! 君、裸! 」 「へっ? わっ! わわ……」  足下を見たらスースーしている。寝起きでぼんやりしていたからって、これはないよなぁ。慌てて前を隠してしゃがみ込むしかなかった。 「洋くん、君って本当に……」 「くくくっ、これじゃ丈が過保護になるはずだ」 「すっ、すみません」 「愛されたんだね」 「背中の痕……すごいな。日焼けよりもこっちが似合うよ」  翠さんと流さんに冷やかされて、もう涙目だ。  丈も丈だが、君の兄達もなかなかだ。  そして一番まずいのは、俺なのか。  楽しい夏の旅行の締めくくりがこんなドタバタでどうかと思うが、なんだかおかしくなって、結局俺も笑ってしまった。 「翠さんも流さんも酷いです。俺の裸は高くつきますよ!」 「うはっ、丈が帰ってくる前に、早く浴衣を着ろ~」 「そうだよ洋くん、僕たちだって、丈に怒られるのはコワイからね」  海に行こう。  海で遊ぼう。  海で笑おう。  この夏の海は……皆の心を開いてくれる場所だった。  昔出来なくて心残りなことがあるのなら、これからすればいい。    出逢った人としっかり言葉を交わし心を重ねて……思い出をどんどん作っていけばいい。  もう何もしないで待つだけの俺じゃない。  自分から波に飛び込んで、泳いでみたいんだ。                   夏休み番外編『Let's go to the beach』了 あとがき (不要な方はスルー) **** 志生帆海です。 番外編『Let's go to the beach』なんと21話も続きました。楽しんでいただけたのなら嬉しいです。応援ありがとうございました。 あと2話クリスマスのお話を載せますね。季節外れな話ばかりですみません。

ともだちにシェアしよう!