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特別番外編 クリスマスの優しい音 1

こんにちは~志生帆海です。  季節外れですがクリスマスイブに書いたお話を載せます。     以前本編の最初の頃に書いたものを2000文字以上加筆しました。但し……少し本編と時系列がずれていますので、特別番外編としてとらえてくださいね♡  本編では春に会社に入社して夏の終わりに洋は悲劇に見舞われてしまうのですが、こちらの話では夏も秋も何事もなく過ごし、丈と初めてのクリスマスを迎える設定のSSです。初々しい若い洋と丈です。ひたすら甘い雰囲気ですので、ふんわりとお読みいただければと思います♡   重なる月のストックも、とうとうあと1話のみです(現在休載中) 『番外編 クリスマスの優しい音』 **** 「寒っ」  冷たい北風がビルの間を吹き抜けていく。  仕事を終えて外気に触れた俺は思わず躰が震えあがってしまった。  今日は俺と丈が付き合いだしてから初めてのクリスマス・イブなのに、家に戻っても丈は海外出張中でいない。  寂しい──  去年のクリスマスは何をしていたか。俺はまだアメリカにいた。向こうのクリスマスは華やかで家の周りもきらびやかな照明で輝いていたが、俺はひとりだった。だが大学から帰る道すがら真新しい雪の絨毯をキュッと音を立てて歩くのが楽しくて、ひとりでいつもより少しだけ浮かれていたのを覚えている。  サクッサクッと音を立てる清らかな道。  雪あかりのお陰で、辺りは仄かに白く光り輝いて見えた。  まだ何も変わることが出来ないでいた俺に、希望の光のようなものを感じさせる帰路を楽しんだ。  春には日本に戻ろう。  きっと何かが変わる、そんな予感がする。  あの日と比べると……今日は雪も降っていないし、街のイルミネーションはどこか仰々しく虚しく感じる。バイクで戻ると灯りの消えたテラスハウスに、丈が不在であることを実感する。もし丈がいたら今日みたいな日は一緒に何をしていたかな。あいつのことだから、きっとチキンとクリスマスケーキを焼いてそうだな。  丈のことを考えると少しだけ心が明るくなるが、目の前にいないことに寂しさを感じた。  俺は丈に頼りすぎている。  これは駄目だ。俺は男だろう。こんな考え変だ。そう思うのに恋しいんだ。  春に丈に抱かれてから小さなすれ違いは多々あったけれども関係は上手くいっているのに、何でこんなに寂しく不安に思うのだろう。しかし今日は寒すぎる。寒さで鼻の奥がツンとしてくるよ。  ふと窓の外を見ると雪がちらついていた。  あぁ雪か……道理で寒いはずだ。こんな日に限ってホワイトクリスマスだなんて皮肉だな。丈に抱かれて初めてのクリスマスはやっぱり一緒に過ごしたかったよ。  肩を並べて、音もなく舞い降りてくる粉雪を共に見上げたかったな。  こんなに一人は寂しかったか。  俺は……こんなに女々しいことを考える間だったか。  早々に冷たいベッドに潜りこみ、ぎゅっと目を瞑るがなかなか寝付けない。こんなこと考えて馬鹿だと思いつつ、心が寒く冷えて来る。温かさを求めて丈との日々を思い出してしまう。  俺の躰を骨ばった男らしい手で隅々まで愛撫してもらい、汗ばんだ丈の雄っぽい視線を浴びながら、きつく抱かれるのが好きだ。  丈の腕の中は、強がっていた俺が甘えられる場所だから。  丈の深い口づけ、甘い吐息を思い出しながら自分の渇いた唇を指でなぞってみる。  早く触って欲しい。  俺にもっと触れて欲しい。  丈、早く帰って来い。   ****  明け方目覚めると、カーテン越しに窓の外が白く輝いているに気が付いた。どうやらあれから雪が降り続けて、かなり積もったようだ。  きっと世界が白く清らかに輝いているだろう。あの幼い頃待ち遠しかった雪景色を今日は楽しめそうだ。  そんなことを考えながら降り続ける雪の音を聴きたくて耳を澄ましてみた。すると遠くから近づいてくる雪を踏みしめる足音が、家の前でピタリと止まったのが分かった。  聞きなれたあの優しい足音。  まさか!  慌てて俺は飛び起き裸足のまま玄関へ向かうとガチャっとドアが開いた。 「丈!」  グレーのウールのコートに散らつく雪を纏い、黒いカシミアのマフラーを巻いた丈が立ってた。 「な……なんで? 帰国は夜の便だったはずだ」 「ふっ良く管理してるな。私のスケジュールを」 「だって……」 「ただいま洋」 「うっ……」  まただ。また鼻の奥がツンとしてくる。泣くものか、少し会えなかったからって女々しい。そう思うのに目の奥がじわっと熱くなり、頬に暖かいものが流れ落ちていく。 「洋……」  丈はそれ以上は何も言わずに俺を包み込んでくれる。そっと丈の背中に腕を回すとコートについた雪が触れて冷たいが、心はどんどん暖かくなっていく。 「仕事が早く終わったから朝の便にしたよ。君との初めてのクリスマスを過ごしたくてね」 「それって俺にとって最高の贈り物だ」 「また一人で泣いてたのか。今……泣いてるのか」  そっと降り注ぐ優しい口づけに、ひんやりとした朝の空気を感じた。 「おはよう……そしてお帰りなさい。待っていた……丈のこと」  いつもより素直な気持ちでこんな甘い言葉を口に出来るのは、クリスマスの朝だからなのか。せき止めることを忘れたように、涙がぽろぽろと零れ落ち丈のコートを濡らしていく。  それは悲しみの涙じゃなく、嬉しさの涙だった。 「丈、メリークリスマス」 「洋、愛してるよ」 ****  そのまま抱きかかえられ、リビングのソファに押し倒された。 「丈っ待てよ! コート位、脱げって」 「洋が不足して飢えているから、余裕がない」 「そんなっ」  まだパジャマ姿の俺のことを、丈は楽し気に見下ろしていた。 「薄着だな、脱がしやすそうだ」 「丈は脱がしにくい! そのコートだけでも脱いでくれよ」  あまりにアンバランスなお互いの格好に、ふたりして笑ってしまった。 「がっついているな、私も洋も……」 「求め合っているというんだよ」 「あぁ」  チュッとキスをされると、その都度、躰がビクビクと震えてしまう。丈の唇も手もとても冷えていた。 「冷たいだろう。まさかの大雪でタクシーが拾えなくて、駅から歩いてきたらこの様だ」 「丈……俺が温めてやるよ」

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