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心通わせて 2

「本当は兄さんが駅まで迎えに来るはずだったんだ」 「翠さんがわざわざ?」 「だが危なっかしいから止めた。で、俺が来たわけだ」 「そうだったのですね。俺……翠さんにも流さんにも心配かけてしまいましたね」   後部座席の洋くんが申し訳なさそうに頭を下げるので、違う違う! と首を振った。 「おい、今は謝るところじゃない。甘えるところだ」 「え……」 「洋……兄さんたちは洋が大切なんだ。だから素直に受け止めてくれ」 「丈まで……あ……あぁ、俺……その、慣れていないんだ。こういうの」  洋くんが嬉し恥ずかし、頬を染める。  ふんふん、俺たちの末の弟は可愛いらしいな。 「さぁ着くぞ。お前達、ほっとして腹が減っているだろう。今日は一緒に母屋で食べようぜ」 「嬉しいです。丈、いいかな?」 「あぁ洋の好きなように。兄さん……すみません」 「丈、お前まで謝るな! 気持ち悪い」 「酷いですね」  山門を潜ると、案の定、山門の内側に翠が立っていた。  家で待てと言ったのに、約束を守らないのも、やはり翠らしい。 「洋くん、お帰りなさい」 「翠さん!」  洋くんの明るい声と表情で、兄さんはすぐに事の次第を察知したらしい。   さすが洞察力に優れているな。    兄さんは優美に微笑み、洋くんをふわりと抱きしめた。 「良かった! 今日は大丈夫だったようだね」 「はい、受け入れてもらえました。後でゆっくり話します」  洋くんも翠の抱擁が心地良いらしく、目を閉じて味わっていた。  兄さんも洋くんも、似ているよ。  耐えて耐えて……ようやく咲いた美しい花だ。  その花を守るのが俺と丈の役目さ。     **** 「洋さん、お帰り!」 「薙くん、わぁ~夕食を作ってくれていたの?」 「いや、オレは温めているだけさ。作ったのはモチロン流さんだ」  台所から漂うこの匂いは……! 「あ……煮込みハンバーグ?」 「そ! 洋さんとオレの好物だよな-」 「そうだよね」  薙くんが友達みたいに話してくれるのが嬉しいし、僕の大好物を流さんが作ってくれたのも嬉しい。  安心して帰って来られる家があるだけでも夢のようなのに……温かく美味しそうな夕食に、楽しい会話まで備わっているなんて、俺には贅沢過ぎる。  母が亡くなってから……あの人と二人で暮らした日々には欠片もなかったものだ。コンビニの弁当は温めても、心は温まらなかった。あの人が、いつ帰ってくるのか冷や冷やしながら膝を抱えて耐えた日々は、もう消滅したのだ。 「翠さん……流さん、ありがとうございます」 「改めて……お帰り、洋くん、今日という日のために、君はよく頑張ったね」  翠さんが慈悲深い声で、俺の肩をポンポンと叩いて労ってくれた。  あ……まずい、泣きそう……だ。 「さぁさぁ、飯だー! 飯にするぞー」  そんな俺の背中を流さんがバンバン叩いて、景気をつけてくれる。 「ほら、洋くん、君には特別だぞ」 「え?」  出されたハンバーグの上には、旗が立っていた。それは日の丸ではなく、月影寺の家紋の入った旗だった。

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