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追憶の由比ヶ浜 28

 翠とは……何度も角度を変え、唇を重ねた。  おっと流石にそろそろまずいか。恋人同士のキスは終わらせないとな。  名残惜しさが込み上げる中、離れようとした時、翠の手がグイッと俺の作務衣の袖を引っぱった。 「……もっと」 「もっと?」  いくら個室とはいえ入院中の病室でキスをするなんて、普段の翠なら絶対に許してくれない行為なのに、今日はおねだりまで? 最高だな! 「もちろん、いいぜ!」  だから調子に乗って翠をベッドに押し倒し、キスを深めた。舌を差し込んで口腔内も蹂躙し、薄くて淡い桜貝のような唇をきつく吸い上げてやった。 「ん……」  翠も抵抗せず仰向けのまま目を閉じて……身を委ねてくれる。  可愛い……従順な翠もいい。  パジャマの裾から手を入れ小さな突起を見つけ出し、指先でしつこい程丁寧に撫でてやる。 「ふっ……うっ……ん」  色っぽい声が、脳天を直撃してくる。  参ったな……キスだけのつもりが止まらない。  夢中になって唇を吸いながら乳首を攻めていると、翠に背中をドンドンっと叩かれた。 「なんだ? もっとか」 「ば、馬鹿……も……う駄目だ」   はっと我に返れば、目元を赤く染めた翠が、唇を濡らして震えていた。パジャマは胸までまくれ上がり、白い肌に充血したような乳首が丸見えで、なんともエロい。 「悪い。忘れられないキスにしようと頑張ったんだ」 「馬鹿……が、頑張りすぎだ!」  明らかに動揺し照れまくる翠に悶絶していると、扉をノックされた。 「張矢翠さん? あのぉ~入りますよ」 「あ……っ、は……い!」  俺はすぐさま翠の唇を作務衣の袖で拭って、パジャマを整えてやった。  その次のタイミングで、クリームイエローのカーテンがシャッと開いたので間一髪だった。 「あら? 面会中でしたか」 「あ……弟が来ていたので」 「まぁ、弟さん? タイプが違いますね」 「ははっ、よく言われます。兄のことをよろしくお願いします」 「はい! モチロンお任せ下さい♡」  ♡~♡~♪  ん? 今♡がふわふわと飛んだ気がしたが、目の錯覚だよな?  「あら? 顔が熱いですね。熱でも? 体温計で測ってみましょう」 「あ……はい」  先ほどまでのキスの雨で濡れそぼっていた翠の唇は乾いていても、色気を孕んだままだった。おまけに目元が赤く染まって艶めいていた。  翠、おいっ、早くクールダウンしろよ。  翠は恨みがましく俺を見ていたが、翠が言い出したことだぜと素知らぬふりをした。 「あら? さっきより血圧も高いですね。それに心拍数も随分あがって」  それはそうだ! さっきまでかなり興奮していたからな。 「何か直前まで激しい運動していたのですか」  お! 鋭いな、それ図星だぜ!  俺が窓辺でニヤリと笑うと、翠に目で制された。  目元を手で覆い、もう片方の手で外に出て行くよう促している。  ハイハイ、兄さんモード発動ですな。 「と、特にしていません。入院になれなくて検査前で緊張しているだけです」  翠が気を取り直してそう言えば、看護師はキラキラと目を輝かす。 「大丈夫ですよ、そんなに緊張されなくても。全部私達が手取り足取りサポートしますから♡」  ♡~♡♪  ハートはいらんだろ! と突っ込みたくなったが、グッと我慢した。  それにしても翠は、どうして布団の中で膝を立てている? 「では、あと15分後にまた来ますね。それまで検査のため採尿をお願いします。個室のトイレを使って、紙コップは中の棚に置いておいて下さいね」 「は……はい」  もぞもぞと気まずそうに目元を染めて身動ぐ翠。  もしかして、もしかして……  先ほどのキスで勃ったのか‼  看護師が出て行ったので、窓辺に立っていた俺はワクワクした顔で翠に近づいた。 「翠、なぁ手伝ってやろうか。採尿のついでにさ」 「ば、馬鹿‼ りゅ、流、自分のも見て見ろ!」 「へ? おおぉ~」  作務衣の上衣に隠れて目立たんが……  翠が勃てば、俺も勃つ。  当たり前の法則だったな。

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