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追憶の由比ヶ浜 29
「流は、絶対についてくるなよ」
「……分かっているよ。兄さん」
紙コップを持って個室のトイレに駆け込んだ。
そのまま壁にもたれて……ふぅと盛大な溜め息をついてしまった。
まったく、どうかしていた。
キスを強請ったのは僕だ。
『もっと』と、おかわりしたのも僕だ。
先ほど……覆い被さる流の力がどんどん増してきてこのままでは勃ってしまう危険は察知していた。でも僕はその重みすら心地良くて、ここが病室だということを忘れて、キスに耽ってしまった。
は、恥ずかしい……。
看護師さんと話している最中、気が気でなかったよ。
まさか股間が勃っている状態だなんて、見つかったら最悪だ。
まさか僕が勃てば、流も勃つのか。窓辺に立っている流の股間を見て、唖然としてしまった。
僕が勃ったのだから、流が勃っていないはずはない。あれは正常な反応ではあるが、いや……あぁもう支離滅裂だ!
とにかく早くこれを静めないと!
必死にお経を唱えた。
どうか煩悩よ、一刻も早く静まってくれ!
****
翠は意地を張っていたな。
俺のこの手でろくをを回すように兄さんのアレを揉んでやれば、あっと言う間に楽になれるのに、ひとりで抜くのか。
ところがトイレから聞こえて来たのは、翠の呻き声ではなく、厳かなお経だった。
おいおい、お経をお供に出すのか。
っと、そういう俺は翠の読経の声すら、官能的に感じる始末だぜ。
あー溜まらない。翠の涼やかな声が心地良くて、下半身がむずむずしてくる。このままここで仏様に顔向け出来ないことを、したくなる。
翠のベッドに腰掛けて枕に顔を埋めると、翠の匂いがした。
「翠……」
これでは高校時代と何もかわらない。翠の声と匂いで抜こうとするなんて。
「うっ……」
苦笑しながらも、ティッシュをあてて準備した。
許せよ、翠。
『もっと』と俺に強請ったせいだぞ!
そのタイミングで翠が戻って来た。
「りゅ、流どうした? 具合が悪いのか」
ベッドにうつ伏せになっていたので、翠には俺が具合が悪くなったように見えたらしく血相を変えて飛んできた。
「な……なんでもない、触れるな。向こうに行けよ」
やましすぎて、しどろもどろだ。
「りゅ、流……どうした? 様子がとても変だ」
そりゃ、変だろ‼
片手は股間のアレを握って、うつ伏せになっているんだから!
バレたら絶対に怒られる。そう思うとブルブルと震えてしまった。
「た、大変だ。顔色も悪いし、そんなに震えて……誰か……そうだこんな時はナースコールを!」
えええええっ! よせ! ヤメロ! (それは大恥だ!)
ナースコールを握る翠の腕を、てて掴んだ。
ついでに時計を見た。あと10分ある。
そんまま翠の手を、俺の股間に導いた。
「正直に言うよ! 苦しいのは、ここだよ」
「な……っ」
「翠のせいだ。『もっと』なんて強請るから」
「あっ……それは、その、ごめん」
翠のもだいぶ落ち着いていたが、まだ平常時より嵩を増していた。
「だ、駄目だ」
「挿れはしない、だが出させてくれ。苦しいんだっ」
「えっ、そんなに……苦しいのか」
翠が俺を気の毒そうに見上げてくる。
「あぁ、苦しいよ、兄さん。助けてくれよ」
「ず、狡いな……流、もうお前は。わかった……いいよ。早くしよう」
「いいのか!」
「気が変わらないうちに、早く」
まさか乗ってもらえると思わなくて、俺は喜び勇んで翠と俺のを取り出し密着させた。そのまま大きな手でふたつまとめ、上下に激しく凄いていく。
「ん……っ、ふっ……ん」
翠は必死に声を堪えていた。そのいじらしい様子にまた股間が奮い立つ。
「も、もう……出るっ」
「一緒に!」
タオルで先端を包み、二人分の白濁を吸い込ませると、ぐちゅりと卑猥な音が立った。
「はぁはぁ……ふぅふぅ……」
翠は全速力で走り抜けたかのように汗をかいて、心臓をバクバクさせていた。
「翠、大丈夫か」
「う……ん。さっき血圧も心拍も測ったばかりだから大丈夫だ。もうそろそろ検査に行かないとな」
「そうだな。なぁ……もう怖くないか」
「くすっ」
「おい、なんで笑う?」
翠が魅力的な笑顔を浮かべた。
「こんなことをしたのがバレないか、怖いけれどもね」
「すっ、すまん!」
「いいよ。僕は読経で静めようと思ったのに全然駄目で、だから結局こうなる運命だった」
翠が言うと、このあるまじき行為も、もはや『運命』になってしまうのか。
「俺、検査も付き添うぜ?」
「だ、大丈夫だ。ただ……」
「ただ?」
「終わるまで、ここで待っていてくれ」
「りょーかい!」
甘い約束をした翠は、パジャマを整え背筋を正して出て行った。
翠……頑張って来いよ。
もう怖いものなんて、ナイだろう?
あとがき(不要な方はスルー)
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二話連続でちょっとしたエロティック・コメディになってしまいましたが、シリアスの息抜きでした♡翠可愛いですね、なんだかんだいって流を溺愛していますよね。流も甘えちゃって~です。
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