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託す想い、集う人 14

 驚いたことに、白衣には私の名前が刻まれていた。  純白の白薔薇の下に、濃い緑色の糸で『JO』と一針一針丁寧に刺繍されていた。  一気に胸が熱くなる。  白江さんに『丈先生』と呼ばれ、気が引き締まった。  海里先生の遺志を継いだ先は、私の自由にしていいと……言葉で解放してもらった。  大空を飛び交うカモメのように、私の心も羽ばたいていた。  もちろん洋を連れて。  洋と目が合うと、彼は泣いていた。  最近涙もろいな。  だが洋の涙は澄んでいて、とても綺麗だった。  出逢った頃より深みを増して、優しい表情を浮かべるようになったな。 「洋、どうだ? 私の白衣姿は大好きだろう?」    私にしては軽口を叩いた。 「ふっ、丈、ずるいよ」 「何故だ?」 「だって、格好良すぎだ」 「お、おい」  洋がこんな大勢の前で、ストレートにそんなことを言ってくれるなんて意外だった。  洋の心も解き放たれているのだろう。 「洋、横に並んでご覧なさい」 「白江さん、私が写真を撮りますわ」 「春子ちゃん、ありがとう。あなたの腕は最高だものね」    洋が私の横に並んでくれた。  白亜の洋館を背景に、白衣姿の私と洋は写真に収まった。 「春子ちゃん、僕……不思議な心地がするんだ」 「雪くん、どうしたの?」 「いや、兄さまと海里先生がすぐ近くにいらしているような気がして」 「そうね。きっと仲良く見守って下さっているのね。二人の決意と門出を」  確かにそうかもしれない。    私は直接会ったことないが、今、海里先生の白衣を引き継いで、ふと彼からのエールを受けているようだ。 「丈と俺の道なんだな。この先は……もう」 「そうだ、頼りにしているぞ、洋」  そう伝えると、洋は見たこともない程、嬉しそうに微笑んでくれた。 「丈せんせ……付いていきます。サポートします。生涯……」  まるで人前結婚式をしているような心地だ。 「あぁそうだわ! 桂人さん、持って来て下さる?」 「あぁ……あれですね。了解しました」  白江さんが嬉しそうに叫ぶと、桂人さんが澄ました顔で何かを取りに行った。 「丈。なんだろう?」 「さぁ」 「おばあ様って、少し丈のお母さんに似ているな」 「みんな好きなのさ。洋のことが」  暫くすると桂人さんが戻ってきた。  手に持っていたのは…… 「洋、これをつけてみて」 「えぇ?」  ふわりと被せられたのは、オーガンジーで出来たウェディングヴェールだった。 「やっぱり、ようちゃんに似合うわ。そして、あの日の柊一さんみたい」 「これ……もしかしておばあ様がつけられたものですか」 「そうよ。本当は……夕にも、つけてあげたかったの」 「おばあ様」  結婚式をあげられなかった母。  花嫁姿を見られなかった祖母。  二人の遺志を俺が継いでもいいですか。  俺に託して下さい。  結婚式をあげたかった母。  花嫁姿を見たかった祖母。    そう捉えてもいいですか。    

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