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託す想い、集う人 17
憧れていた祖母の存在。
ずっと……祖母の家に泊まってみたかった。
いつか、こんな日が来たらいいのにと……夢見ていた。
俺は今、その夢の中にいる。
幼い頃から不思議だった。
俺には親戚と呼べる人がひとりもいないことが。
……
「ママ、ぼくにはおばあちゃんはいないの?」
「どうして、そんなことをきくの?」
「アンジがね。なつやすみはおばあちゃんちにいくっていうから」
「……そうなのね。ごめんね。洋にはおじいちゃんもおばあちゃんも……いないのよ」
「ふーん」
そう言えば父方の祖父母も知らない。
「どうした? 洋にはパパとママがいるから、大丈夫だよ」
「あっ、パパ~」
小さな俺が手を広げて父親に歩み寄れば、逞しい腕でふわりと抱き上げてくれた。
「洋は、ママに似て可愛いな」
「パパ、だいすき」
父親はいつも家にいて、本に囲まれている人だった。だから幼い俺の面倒を良くみてくれた。
「今度、優しいおばあちゃんが出てくる本を翻訳してあげよう」
「うん、パパ、約束だよ」
「よしよし」
「あなた~、洋、シチューが出来たわよ」
「ありがとう、夕。君の料理は本当に美味しいよ」
俺はよく父親に抱っこされていた。
母は身体が弱くて華奢だったから……
父は背が高かったので、視界がぐんと上がり楽しかった。
幸せを絵に描いたような食卓を真上から見下ろすのも大好きだった。
……
「おばあ様、俺……ずっと憧れていました。おばあ様という存在に……」
素直に話すと、祖母も目を細めてくれた。
「洋、私もよ。孫が夏休みに遊びに来てくれるのに憧れていたわ。朝の結婚は遅く、しかも早くに渡米してしまったので、朝の一人息子、涼にもほとんど会えず……寂しかったわ」
そうだったのか。涼とも会えていなかったのか。
祖母も同じ気持ちだったことを知り、じんわりとした。
「そうだ。おばあ様にお土産があって」
酔ってしまい、渡すのをすっかり忘れていたが、鞄の中から持って来た桜貝のペンダントと御朱印帳を取り出した。
「まぁ、孫からの贈り物……憧れていたわ」
「この前由比ヶ浜で一緒に拾った桜貝を、ペンダントにしてもらったんです」
「まぁ、流さんに?」
「はい」
「素敵! 洋には器用なお兄さんがいるのね」
キラキラと輝くペンダント。
「洋、つけてくれる?」
「喜んで」
おばあ様の胸につけてあげると、優しく揺れていた。
「なんだか……夕みたいね」
「俺もそう思いました。母さんが寄り添っているみたいです」
「夕は、甘えん坊だったの。私にべったりで……だからきっと浅岡さんにもべったりだったんじゃないかしら」
記憶をまた辿る、いつもなら辿り着けない場所へ。
「あ……そうだったかも。俺たちよく三人で寄り添っていました。食事を終えると、リビングのソファでくっついて……母は父にお姫様のように扱われて、幸せそうに笑っていました。俺を挟んで二人が微笑み合っていて……うっ……」
「洋、無理しないで。泣かないで」
「おばあ様、俺……優しかった二人がいなくなってしまい、ずっと……とても寂しかったんです。孤独でした」
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