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ある晴れた日に 11
「え?」
声の主は、葉山の海で偶然出会い、懇意にしている葉山瑞樹くんだった。
「丈さん、お久しぶりです! こんな所でお会いできるとは、すごく嬉しいです」
礼儀正しく和やかに挨拶しくれる変わらぬ態度に、安堵した。
「君はいつもここで?」
「いえ、いつもは内勤ですが、人手が足りないと店舗にも立つので……今日は、たまたまです。なので、お会い出来て本当に嬉しいです」
「私もだ」
瑞樹くんに会えるなんて、助かった。祖母宅で過ごす洋に花束をと思ったが、不慣れ過ぎて何をどう選んだらいいのか困っていた。
「今日はどのようなご用途ですか。僕が作っても宜しいですか」
「もちろんだ。ぜひお願いしたい。実は洋が祖母宅にいるので迎えに行く所なんだ。その……なかなかない機会なので、花でも持っていこうかと……同僚からアドバイスを受けてね」
黒いエプロンに白い七分丈のシャツ姿の瑞樹くんは、優しく微笑んでくれた。
「それは素敵なサプライズですね! 洋くん、絶対に喜びますよ。丈さんは、何色がお好きですか」
「好きな色か。落ち着く色がいいな」
「なるほど、洋くんはどうでしょうか」
「……洋の好きな色は何だろう?」
私達はまだまだ知らないことばかりだと、ふと思った。
長い年月、人にも自分にも関心が持てなかった私には、洋以外に執着するものがない。それに洋はいつもシンプルなモノトーンの服が多いので、好きな色がいまいち分からない。
即答できなくて困っていると、瑞樹くんが助言してくれた。
「あの……では、この色はどうでしょう」
差し出されたのは、オレンジシャーベットのような色合いの薔薇だった。
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