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ある晴れた日に 13
洋の流した涙が、魔法を引き起こした。
薔薇色の変化は神秘的だった。
苦痛、苦悩で散々泣いてきた洋が、こんなにも優しい涙を流せるようになったのかと思うと感慨深かった。
「丈……、丈っ、俺……どうしよう。どうしたら……」
「どうした?」
「幸せ過ぎて……怖いよ」
「怖くなどない。これは洋が自分で掴んだ幸せだ。幻なんかじゃない。君がここまで辿り着く道程を考えたら、もっともっと幸せになってもいい程だ」
涙で頬を濡らす洋の細腰を掴んで、抱き寄せてやる。
白いシルクシャツ肌触りは上質で、柔らかなドレープが細い首を更に華奢に、きめ細やかな肌を真珠のように輝かせていた。
まるで月の精のようだ、洋、君は……儚くも凜とした光。
ここが洋の祖母宅の庭先だということを忘れて、洋と唇をぴったりと重ねてしまった。
「ん……あっ、丈……駄目だ、ここでは」
「堪らないんだ」
洋が美し過ぎて……心も身体も綺麗な男だ、君は。
「ようちゃん、そこにいるの?」
声が茂みの向こうからして、慌てて身体を引き離した。
洋はキスだけで感じてしまったようで、困った表情で、もぞもぞとしていた。
「おばあ様、こんばんは。丈です」
私は洋を背中に隠すようにして、挨拶をした。
「あら、丈さんが到着したのね」
「はい、勝手にお邪魔して失礼しました」
「いいのよ、あなたはようちゃんの大切な相手だもの」
ようやく……背後の洋の息が整ってきたようだ。
「おばあ様、この薔薇を見て下さい」
頬を薔薇色に上気させた洋が、おばあ様に花束を見せると、甘美な香りに包まれた。
「まぁ! キレイな薔薇の花束」
「あの、これは……丈が買ってきてくれたんです」
「なんてロマンチックなの! ようちゃんと丈さんが並ぶと、まるで二人の王子様のようよ」
私が王子様? それは照れ臭いな。
洋が王子様なのは分かるが、無愛想な私にはそんな資格はないだろう。
「丈、いい表情だな」
「私が?」
「あぁ、微笑んでいたよ。自然に口角が上がって、珍しいな」
「そ、そうか」
ずっと感情を表に出すのが苦手たった。そもそも感情の起伏が乏しかったのだ。
だから、歯を見せて笑うどころか、微笑むことも億劫だったのに。
「丈さん、中に入って、せっかくだからお茶をして行ってね」
「はい、喜んで」
この時になって白江さんにも薔薇を買ってくるべきだったと、反省した。洋も同様のことを考えたようで……
「なぁ、丈……この薔薇を少し、おばあ様に分けてもいいか」
「あぁ、そうだな。ぜひそうしてくれ」
「んっ」
そうか、足りないのなら、分ければいいのだ。
独り占めしないで分けると、分けた方ももらった方も気分がいいのだな。
そんなことも知らないで生きてきた。
「おばあ様、この薔薇、少しもらっていただけますか」
「でもそんなに綺麗にブーケにしてあるのに、それはようちゃんのために、丈さんが買って来たものでしょう……悪いわ」
「俺がそうしたいんです。丈も賛同してくれています」
洋が不器用な手つきでリボンを解こうとしていたので、私がするりとリボンを抜いてあげた。
すると……!
「え!」
「どういうこと?」
「ブーケの中から、小さなブーケが!」
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