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身も心も 24
丈とお父さんが似ている?
あぁ……確かに、そうかもしれない。
お父さんの静かな目元、一歩引いた場所から大きく見守ってくれる様子は、俺を大きく優しく包んでくれる丈と同じ雰囲気だ。
父親か……
俺にとって父とは、正直かなり遠い存在だ。良い意味でも悪い意味でも遠くにあって、わざわざ手を伸ばそうとも思わなかった。
交通事故で亡くなった父は記憶がおぼろげだし、その後は……よせ、この和やかな場で思い出すことではない。
人知れず、奥歯をキュッと噛みしめた。
「洋くん、食後に私と一局どうだ?」
「えっ、一局ですか」
その時ひやりと思い出したのは、義父に付き合わされたチェスだった。最初から身分差のある駒、逃れることのできない状態での「チェックメイト」、あの執拗な視線を思い出し、悪寒が走る。
「洋? 大丈夫か。父の一局とは、囲碁のことだが」
「囲碁? ……やったことない」
「そうかそうか。じゃあ私が教えてやろう。息子達は誰も付き合ってくれなくて寂しいんだよ」
「だって、おじいちゃん、イマドキ囲碁なんてやる人、いないよ」
「薙、そんなことないぞ」
囲碁とは、あの白と黒い石のことか。将棋やチェスのように、駒ごとに能力の差があるわけではない、白と黒だけの世界に興味が湧いた。
「俺に教えてください」
「嬉しいね。では早速向こうでやろう」
「丈、行ってきてもいいか」
「もちろん」
全くの初心者の俺に、お父さんが優しく手解きしてくれる。
ニコニコと嬉しそうだ。
ふっくらした愛嬌のある指先で、碁盤に石を置く。
白石も黒石も滑らかな曲線を描く優しい形で、手触りもいいな。
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